真空管ラジオの修理・調整法

(mT管トランスレス5球スーパーの修理・調整)

mT管5球スーパーの修理や調整の実例を東芝 「かなりあ Q」について具体的に説明します。
個々の故障はラジオ修理メモをご覧ください。
シャーシの取り外し、調整法などの注意事項をここでは説明します。
なお昔のラジオ修理テキスト等を持っている人もいると思いますが、電源投入時だけは是非注意して下さい。
なぜなら、昔はラジオは毎日使うもので、故障したらすぐ修理するのが普通でした。
故障個所も普通は1つの原因でしたが、最近入手するラジオは数十年放置された物が多いので、
故障個所も複数で、昔のラジオ修理テキスト通りにしたら、貴重な部品をさらに壊す可能性があります。
充分注意して、電源を投入ください。

なおラジオ修理メモ23に示すような冶具を作ると便利です。
ケミコンやカップリングコンデンサーの漏洩試験を省略する時は是非利用してください。

原理は単純 AC回路に電球を直列に入れるだけです。

1)シャーシの取り出し

まずキャビネットからシャーシを外す必要が有ります。
ツマミとシャーシの止めネジを外すのは当然として、
この種のラジオではダイアルの「指針止め」を外す必要が有ります。
真空管を取り外して、中を覗くと写真のような「指針止め」が有ります。

普通 ペンキ等で固定されています、ダイアル糸を
右と左に交互に手前に引けば比較的簡単に外れます。
元に戻すために、よく観察しておいて下さい。
シャーシを取り出したら、掃除機でゴミを吸い取り、汚れを落とします。

シャーシと真空管等を下記写真に示します。
左の赤い工具は「mT管のピン直し」です。
真空管のピンは曲がり易いのでこんな工具で修正します。
まずラジオペンチで概略修正し、この治具で最後の修正をすれば完成です。

 

貼付されていた回路図
ラジオ修理メモにも記載したごとく、最初はケミコンのテストをして、OKの後通電が望ましいです。
下記の写真はラジオ修理メモに記載の治具を使って、
ケミコンのテストと30A5のG1の電圧測定をしているところ。


テスト治具が無い場合、電源をそのまま入れざるをえませんが、
PLや35W4が異常に光らぬか注意して電源を入れて下さい。
B電圧を測定し、100V近く有るかすばやく確認します。
電圧が低い場合、35W4のエミゲンか、ケミコンの不良の可能性があります。
なるべく早めに電源を落としてください。
原因を特定した後、再度電源を投入した方が安全です。
なおヒューズが無いからと代用品を使ってはいけません、球がヒューズの代わりになって断線します。
1A以下のヒューズを使って下さい。

電源が入らぬ事があります、これは真空管の断線、ヒューズ断、コード不良です。
真空管の断線は取り外した状態で、断線の確認をした方が確実です。
PLが断線している場合、35W4も同時に断線している可能性があります。
特にPL点灯用の4ピンと6ピンの間が切れ易いです。
真空管がOKでも、点灯しない場合、ACコードやヒューズ、それに抵抗などを疑う必要が有ります。
真空管は直列に接続されているので、ACプラグの両端で抵抗を測ると140Ωくらい有ります。
ACプラグの片側にテスターのリードをもう1つのリードを各真空管の3と4番ピンに当てていけば、断線した部分が判ります。
各測定値がこれより小さくないと何か原因があります。
なお100V  0.15Aのヒーター電流ですから666Ω有るはずですが、真空管が冷たい時は数分の1程度しか抵抗はありません。
またメーカーによって抵抗値(冷たい時の)は多少違う可能性があります。
あまり神経質に測定する必要は有りません、目安です。

安全に通電出来るのであれば、最低30A5のG1の電圧を測って置く事をお勧めします。
ここに少しでも+電圧が出れば、カップリングコンデンサーの不良を疑って下さい。
(可能性が低いですが、30A5の不良でも+電圧が出る事はあります)

IFTの調整方法

まずIFの調整です。
SSG(標準信号発生器)かTO(テスト オシレーター)を使います。
写真右上がJRCのSSGです。
これはジャンクを買ってきて、自分で修理したものです。
花澤さんのホーム ページにこの機種の詳細な解説が有ります。
同じ販売店で購入したようです、参考にして下さい。
普通のラジオの調整にはこんな高級なSSGは必要ありません。
単にジャンクで安く買ったのを自分で修理してつかっている事、
それにBCLラジオの調整に必要だからです。
このSSGの特徴はクリスタルマーカーがついていて、1MHzと100KHzのところで校正出来る事、
それに漏れ電波が少ないのでBCLラジオの感度試験に便利です。

SSG(あるいはTO)とラジオの接続は
ラジオのアースとSSGのアースを、アンテナ端子とSSGの出力端子を接続します。
でも普通は直結しません。
数百Ωの抵抗か250PFくらいのコンデンサーを経由して接続します。
これはアンテナのダミーとなるもので、トラッキング調整の時には必要となるものです。
(IF調整だけであれば、ダミーは不要です)

SSGやTOが無い場合、IFTの調整は放送を受信して、IFTの調整をする事も出来ますが、
メーカー製ラジオの場合、省略した方が無難かもしれません。
気になる方はセラミック発振子(秋葉原の秋月電子で@50円)とTRを使って、
簡単な455KHzの発振器を作っても良いでしょう。
変調をかけるとさらに便利です。

変調のかからぬ発振器を使う場合や放送電波を利用する時は12BA6のカソード電圧(DC)を測ります。
この68Ωの抵抗の両端の電圧が信号が強くなった時に、低くなる事を利用して、出力の最大値を検出します。
(電圧が低いので意外と見にくいと思います)

 

変調のかかった信号の場合
出力電圧を測るために、出力管のPに0.1μF(耐圧注意)経由でテスターを接続します。
テスターの反対側はアース。
テスターは交流電圧計(10か25V)レンジにします。
放送波で調整する時は変調がかかっていますが、測定器と違って、レベルが変動しますので、上記のカソード電圧測定法が良いでしょう。
またマジックアイが付いている場合、これで合わせるとかんたんです。

IFTの調整
1)ダイアルは周波数の一番低い方に合わせます、ラジオのVRは1/3くらいに。
2)SSGを接続します。
3)SSGを455KHzに合わせます、出力は80dB程度。
4)スピーカーからの音を聞きながら、SSGの出力とVRを加減します。
この場合、VRはなるべく音が大きくなる方向、SSGの出力は絞る方向で、
テスターの指針が測定レンジの1/3くらいになるように、出来るだけSSGの出力は絞ります。
(ここで音が聞こえない場合、IFTが455KHzから大きくずれている事も考えられますので、
SSGの周波数を上下に動かして見てください。)
5)テスターの振れが大きくなるようにIFTの上下のネジを調整します。
一通り終わったら、もう一度同じ確認をして下さい。
これでIFTの調整は終わり。
SSGが無い場合、省略した方が無難かもしれません。

 

特にナショナルのラジオで下記のようなIFTが付いている場合は要注意です。

このIFTはネジをまわすとコイルを巻いたボビンごと回ります。
調整する時は、ボビンが動かないよう注意して調整してください。
何度もコイルを断線させ、泣いた事があります、十分注意のこと。
修理体験記は写真をクリックください。
パイロットランプ

トランスレスラジオでパイロットランプが点灯しない時は、整流管が断線する危険があります。
これは整流管のヒーターの一部とランプを並列に接続、ヒーター電流とB電源用の電流を重畳して流している為、
ランプが断線すると整流管のヒーターが過負荷になり、最後は断線します。
例外的な回路も有りますが、殆どが当てはまります、ご注意ください。
なお35W4には6.3V 0.15A    19A3の場合 3V 0.15Aを使います。
なぜB電流をPLに流すかは、このような方式にしないと暗いのです、日本ではPLが明るくないとラジオの商品価値が下がります。
このため、特に日本製のラジオではこの回路が多用されています。



スーパーの局発の調整(ダイアルの目盛り合わせ)

スーパーの受信周波数は局発の周波数で決ります。
一般に低い方の周波数はコイルを調整します。
コアがついていれば、これで調整出来ます。
コア無しの場合、コイルの巻線を増減する事になります、これは非常に不便です。

メーカー製ラジオではコイルのインダクタンスの精度を高めると共に、
ボビンの中に巻線の一部分を残し、「これを動かし微調整できる」ことでコアを省略したものがあります。
中のエナメル線を他の巻線と同じ方向にずらすとインダクタンスが増加、逆方向に寄せると減少します。

写真のようにボビンに割り溝をつけたものは東芝にラジオに見られるもので、
精度良くコイルを製作したり調整のしやすさを狙ったものと思われます。
ST管5球スーパーの場合、自作機はパディングコンデンサーで調整するのが殆どでした。
この時代にはコアが高価だった為でしょう。

高い方の周波数はトリマコンデンサーで調整します。

発振コイルでコア入りのものの例。
ゼネラル5A301のコイル)
これだと簡単に調整できる。
ダイアル目盛り合わせは、まず指針を0点(スタート位置)に合わせます。
スタート位置が不明な場合、両端がバランスする位置で決めてください。
600KHzの目盛りのところで、600KHzが受信できるよう、コイル(のコア)を調整します。
1400KHzの目盛りで1400KHzが受信できるようトリマで調整します。
1度やれば普通はほぼ大丈夫ですが、念のため、再度600KHz、次に1400KHzの確認をして下さい。
これで普通は目盛りに合致するのですが、1000KHz辺りで確認した方が良いでしょう。
なお自作のST管ラジオの場合は低い周波数はパディングコンデンサーで合わせる事が殆どでした。
さらに昭和20年代前半の部品を組み合わせた場合、規格が各社バラバラの為、目盛りが合わぬ事が多いです、念のため。

短波帯も同じ様に調整します。
中波帯だけのラジオはバリコンにトリマコンデンサーがついていますが、2バンド以上の場合、
トリマはバリコンから独立してコイルと組になっています。

トラッキング調整
低い方はアンテナコイルの同調コイルのLを、高い方はトリマ コンデンサーで最高感度になるように調整します。
コイルにコアが無い場合、調整はノウハウが必要です。
調整は省略した方が無難かもしれません。
この部分も参考にしてください。

動作確認

調整が済めば、念のためエージングを兼ねて、動作試験をします。
なおトランジスターラジオに親しんだ人は、真空管ラジオにアンテナが必要とは思わない人もいるようです。
是非アンテナをつけてきいて下さい。
出来れば、アースも欲しいです。
昔のラジオの感度階級は高さ8m 水平部12mの標準アンテナを接続する前提で、計算されています。

トランスレスのシャーシには電灯線の片側が接続されている事が多いので、
アース線を直接シャーシに接続するのは止めましょう。

 

ラジオ修理完了

修理が完了すれば、キャビネットに入れるわけですが、ここで注意。
修理時 裸のスピーカーで確認した場合、意外とハムに気づかぬ事が有ります。
プラスチックキャビの場合は少ないですが、木箱入りの場合、
箱に取り付けると低音が出るようになり、ハムが気になってしかたが無いと言う事がよくあります。
大部分は電源のケミコン容量の不足ですが、箱に入れる前に確認した方が楽です。


SSGが無い場合

MWのトラッキング調整
低い方は東京の場合、594KHzのNHK 1で、高い方は1422KHzのJORFで合わせる事が出来ます。
この場合、音では合わせ難いのでIFの12BA6のカソードの電圧が最も低くなるように合わせる事で調整出来ます。
SWのトラッキング調整
短波帯は下記のような水晶発振器を購入すると良いでしょう。
5Vの電源(NiCd電池4本)さえ接続すれば、これだけで標準の物差しが出来ます。
搬送波(変調なし)だけですから、調整には少し不便ですが。
写真は1MHzですが4MHzの物を準備すると便利です。
これで4 8 12MHzの標準信号が出来ます。
秋月電子で2〜300円で売っています。


短波帯も基本的にはMWと同じですが、イメージを常に意識して調整する必要があります。
特にこの様な水晶発振器の場合、当然の事に高調波も出ます。
普通の短波ラジオの場合、イメージは本物の下側910KHzの処に出ます。
間違いやすいので充分注意しましょう。
3.9〜12MHzを受信する場合、上記発振器を使うと、4 7.09 8 11.09 12MHzで受信できます。
ここで端数のある周波数がイメージです。
イメージに比べ、本物が少し強く受信できれば、調整が取れたことになります。
でも12MHz付近は殆ど差が出ないでしょう。

余談
@BCLラジオでMW帯を1KHz単位で直読できる物を持っていれば、IFの周波数を確認することが出来ます。
まず真空管ラジオで594KHzのJOAKを受信します。
発振コイルの近くにBCLラジオを近づけ、594+455KHzの1049KHz付近を受信してください。
キャリアー(無変調の電波)が強く出ていることがわかります。
この周波数を読んで、受信周波数との差を計算すれば、これが現在調整されているIF周波数です。
AMWだけのラジオにはトラッキングレス(親子)バリコンを使ったものがあります。
これはパディングコンデンサーがありません。
発振コイルのコアで調整することになります。

個別のラジオ修理法でわからない事があれば 遠慮なくラジオ工房掲示板にどうぞ。
この場合 事後の修理報告は必ずしていただくようお願います。
最近 聞きっぱなしの方が多く、気力が失せます。


修理のノウハウや資料については下記の書籍をご覧ください。

  



 ラジオの修理を自分でやる方は このホームページの他真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!、や真空管式スーパーラジオ徹底ガイドも参考にしてください。
不明な点はラジオ工房掲示板に実名で投稿ください、修理ノウハウの提供は無償です。
初歩的なことでも結構です、ただし他人が解るように書いてください(神様や占い師にするような経緯を省略した質問は返事不能です)。

当方に依頼される方はラジオ修理工房をご覧ください、こちらは有償です。
 


00/11/12
2001年6月11〜13日修正
2001年12月1日移転
2002年2月8日
2002年11月1日リンク修正
2003年12月10日 ナショナルIFTの注意事項追記。
2005年4月19日
2005年8月16日移転
2006年6月23日リンク変更
2006年6月24日
2007年4月14日:6223
2007年8月16日:8905
2007年10月1日:10220
2015年1月2日:21,300 画像リンク修正




ラジオ工房修理メモ

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