真空管ラジオの修理 ナショナル 戦前の高周波増幅付スーパーヘテロダイン受信機 6Sー3
  (58 2A7 58 2A6 2A5 80)

依頼主から
真空管ラジオの修理をお願いします。
松下の戦前の6球スーパーで形式は6S3で昭和14年頃のラジオです。
受信できますが、コンデンサーの容量抜けのようです。
貴重なラジオですので、素人が直すよりよいと思いますので、時間が有りましたらよろしくお願いします。

一応受信できると言うので、簡単に引き受けたのですが、いやはや大変な事になりました。
ケミコンとペーパーコンデンサーが使われているので、念のためケミコンテスターで漏洩電流調査をしました。
大丈夫です、内部を見たとき部品の姿で心配はしたのですが、受信で出来るということで通電してみる事にしました。

確かに放送らしきものが聞こえます、しかしアンテナはPU端子に接続した時です。
ダイアルを動かしても変化しません、したがってアンプの非直線部分で検波されたもののようです。
念のためB電圧を測定してみると、210V程度で2A5のプレート電圧は190Vです、これは低すぎます。
80のプレートの電圧を測定してみるとこれも220V程度です。
出力管のカソード電圧とグリッド電圧を測定してみると双方とも0Vです。
危険なので通電を止めて、調べてみると、2A5のグリッド電圧を供給する抵抗が断線しています。



修理着手前のシャーシ内部。
紺色のビニール線は依頼主が修理したようです。
またVRも交換したとの事。
このラジオはフィールドコイル(1000Ω)がマイナス側にいれてあります、この電圧降下を利用して出力管のグリッドバイアスにする仕掛けです。
この抵抗が断線するとノーバイアスになり、過電流が流れます。



陽極特性図を見ると、良く判りますが、バイアスが0Vの時には90mAもの電流が流れます。
非常に危険な状態で使用されていたことになります。
2A5に無理な電流が流れるため、B電圧が下がっていたのです。
効きの悪いブレーキをかけたまま、全力で車を走らせていたようなものです。
このまま使い続けると、トランスが焼けるか、真空管が駄目になります、
気のせいか出力管のカソードが少し剥落しているようです。
この様になると寿命が縮みます、ご注意ください。
フールドコイルや出力トランスが断線しなくて良かったです。


真空管の特性図は日立の真空管ハンドブックから(6F6)。

真空管試験器で確認すると 幸い何とか真空管は使えるようです。
ただ2A7だけは駄目でした、これはラジオが受信できたと言うことと矛盾しますが、
この球だけ脚がぐらぐらしていますので、輸送途中で駄目になった可能性はあります。
あるいはストレート受信機として働いていたのかもしれません。

このラジオの回路図はありません、現物から推定して修理する必要があります。

ペーパーコンデンサー:数値が読めませんので、外した後、カッターで汚れを削る落とす方法で確認しました。

汚れで数値が読めない
汚れを削り落とすと読めるようになる
(同じコンデンサーです)




どうもVRの配線が変です、この部分は少なくとも切替SWつきでなければラジオとPUの切替は出来ません。
このVRは単純なON OFFSW付きです。
これではラジオとPUが同時に動作します。
元回路がわかりませんので、とりあえずラジオだけ受信できるようにしました。
ラジオとPUの切替回路の例。
単純なON OFF スイッチつきのVRを利用する時は下記の回路例のうち、AかCを選ぶ必要があります。
この回路だとラジオが混入しますので、この様な豪華ラジオに採用するとはとても考えられません。


ほぼ修理が終わって、新品の2A7を差し替えた上、通電するとラジオ放送が受信できます。
但しハムが猛烈に多いです。
2A6のバイアス電圧を測定してみると5Vくらいあります、
この様にバイアス電圧が高いのはペーパーコンデンサーの横リークが原因と想像されます。
隣の端子が58 2A7のスクリーングリッド回路用で100V近くの電圧が加わっていて、
端子間(実際は内部の素子)の絶縁不良が原因で同じ現象が発生します。
原因きり分けの為この部分を切り離しました。
ところが逆に猛烈なハムです。

調べて見るとブロック型のペーパーコンデンサーの別のニットが絶縁不良になっていました。
半田で暖めた為、オープン状態のリード線が接続され、劣化したコンデンサー本来の漏洩電流が表面化したようです。
ペーパーコンデンサーは錫箔を絶縁紙に巻き込んで作ります、引き出し線は錫箔部分に差し込んだだけですから、
長い間に接触不良になり、オープン状態になっている事があります。
何かのショックで導通が戻ると上記に様な現象が発生します。

ブロックコンデンサーの横リーク
ケミコンでも同じですが、ペーパーコンデンサーを複数個 同一のケースに納めると、
理論上は接続されていない端子間に、劣化に伴いリーク(絶縁不良と表現した方がよいかも)がでてきます。
図のように点線で接続した抵抗があたかも存在するようになるのです。
隣の端子に高い電圧が加わると電圧が漏れ出て、上記のように2A6のカソードバイアスが上昇するようになります。



ブロックコンデンサーを取り外して、コンデンサーは全て交換することにしました。
あちこち部品を外さないと、コンデンサーが外せませんので、本日はここまでとしました。


ほぼ完成したシャーシ内部、このあと変更あり。
ラグ端子を2個取り付け、これに部品を半田付けしました。
裏側は空いていますが、シャーシの上側にはバリコンやコイルが配置されているので、
穴あけは充分注意する必要があります。
この作業だけで1日かかりました。
回路図無しで修理をする時はあちこち気を使います。
オリジナルと思われる部品と後日修理で取りつけた部品を見分け、オリジナルの状態を推定しながら組み立ててゆきます。

製造後70年近く経過しているので、半田付けが上手くできない部分があり、更に手間がかかります。

パディングコンデンサーは大きな半固定コンデンサー(トリマを大きくしたような形)と
ペーパーjコンデンサー0.000625の並列でした。
当然これは使えませんので、マイカコンデンサー300PFを2個並列で代用しました。

動作させて見ると、どうも様子がおかしいです、上手く受信できる時と、雑音が出て困ることがあります。
良く 調べると、2A7のソケットが変形しています。
接触不良を修理する為か、ペンチで変形させてあります。

2A7のベースのピン(脚)が1本だけぐらぐらしていたのはあるいはこの為かも知れません。
変形を修正して、無事解決しました。
しかし思わぬ工作がしてあるので悩みます。


円筒の木枠に巻かれたIFT。
実測252KHz。
設計値は不明です。


調整中のナショナル 6S−3 RF増幅つきスーパー。
アンテナをつなぐと良く受信できます。
ただところどころでブルブルと発振するようです。
ただRFつきとしてはなんとなく感度が低いのでSSGで測定してみました。
戦前の物とは言えこれではおかしいと調べてみました。


結果としてアンテナコイルのアース端子の半田付けが外れていました。
シャーシの切り込み(半月計の穴)から見えるものはアンテナコイルのベークボビン。
端子の半田付けが微妙に外れています。


依頼主から送っていただいた写真です。
赤い矢印の部分が該当箇所です。
VRを交換した時この部分が取れたのか、
あるいは最初から半田付けが悪かったのかもしれません。
結果としてアンテナコイルのアース側が浮いていた事になります。
パディングコンデンサーはペーパーコンデンサー(0.000625)と板状の半固定コンデンサーが使われていました。
ペーパーコンデンサーは当然のことに使えません、代わりにマイカコンデンサーを組み合わせて代用しました。
NHK1(594)とJORF(1422)はあわせられるのですが、途中が合いません、IF周波数の違いかとも思ったのですが、
バリコンの羽根が変形しているので、已むを得ないと思いそのままとしました。
トラッキング調整を試みたのですが、すれが酷く調整は困難でした、しかし さすがRFつき高感度です。

感度試験も終了、これで終わりと思ったのですが、気になっていた2A5のバイアス電圧を再度確認してみました。
−13Vです、多少少ない感じですが良しとしました。
原因は2A5の劣化で、B電流が少なくなり、1KΩのフィールドコイルでの電圧降下に影響しているようです。
2A5のプレート電圧250V G2電圧270V、58のG2電圧110V、カソード電圧2.5Vです。


正面の写真。
中央上のツマミは2重になっている。
中央 下のツマミはオリジナルではないようです。




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当方に依頼される方はラジオ修理工房をご覧ください、こちらは有償です。
 



2006年8月6日作成初め
2006年8月8日
2006年8月12日
2006年8月13日

2006年8月11日


修理のノウハウは「真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!」をご覧ください。



ラジオ工房修理メモ