真空管ラジオの修理 TOHO5球スーパーのあっと驚く修理

TOHOのキャビネットに組み込んだラジオの修理を依頼されました。
持ち主のNさんの話では。
@最近まで動作していた。
A直前には音量が極端に小さくなった。
Bダイアルの糸が切れた。
荷物が到着して、開梱してみると見慣れないものが奥に横たわっています。
よく見ると大型の電解コンデンサーです。




内部を見ると6球+マジックアイになっています。
6WC5 6D6 6ZDH3A 76 42 80BK 6E5
典型的な素人組み立ての構成です。
キャビネットはトーホーのSD-106という製品です。
このキャビネットを使ったキットも売り出されています。
販売例は30年代のラジオ資料集または(ミラーサイト)をご覧ください。  
元来6WC5 6D6 6ZDH3A 42 80(BK) 6E5の標準スーパー用です。
このシャーシに無理やり76を割り込ませたもの。
変則的な球配置はそのせいです。

5球より6球スーパーが高級と言うことで、一時不必要に球を増やすことが流行しました。
雑誌の記事の例を何故無用な球がついたスーパーが作られたかをご覧ください。


チューブラタイプのコンデンサーの空中配線は良くあることですが、
大型電解をシャーシにも固定せず、
細いリード線で接続、シャーシ上に横たえてあるのは始めてです。
右端の42と比べてください。

どうもシャーシに片足だけ緩く固定されていた可能性がある。
(両方止める為の穴は無い)
オークションでの購入品との事で、
数度の輸送で外れたのかもしれない?。
それにしても考えられない酷さ。


内部は空中配線で出来上がっています、
良くこれで無事動作したものです。
このまま通電する勇気も無く、
ケミコンなどの漏洩電流調査。
@ケミコンはOK
A42のG1に15V近く+電圧が、
よく真空管が無事だったと思います。
(実働状態だと+5〜+7Vくらいか)

上記写真の一部を拡大したもの。
左下の中継端子もネジ止めが無く、
空中に浮いています。


これも
空中配線の例。


シャーシ上の様子。
左上の黄色の糸はダイアルの糸かけに使われていた水糸。
(大工さんが使う黄色の糸)
これが磨耗して断線しています。
電解コンデンサーのケーブルも見えます。


6WC5 6D6 6ZDH3A 76 42 80BK 6E5のスーパーは非常識なラジオです。
普通のラジオの低周波段に76を加えても、害があって利益はありません。
トラブルメーカーと言って良いでしょう。
ラジオ修理メモの「その7 素人組み立て品」をご覧ください)
これは持ち主の最近まで動作していた云々と矛盾します。
よく調べてみると、6ZDH3AのPと42のG1が0.1μFで結ばれています。
結局 76は飾りにつけてあったのです。
これで矛盾無く説明できます。


左から42 76 6ZDH3Aのソケット
42のCピン(G1)と6ZDH3AのBピン(P)が0.1μFで結ばれている。
76はヒーターは点灯しているが、
回路的にはラジオ受信と無関係。

結果的に6ZDH3A 42 80BKの部分を全面的に組みなおすことにしました。
今までの整流管の位置にケミコンを、42の位置に整流管を配置しました。
ソケットは汚れが酷いので、簡単に清掃しました。
また低周波段以外のRF部分もペーパーコンデンサーは念のため交換しました。
出来上がった配置は下の写真をご覧ください。




修復済みのシャーシ下。
修理前の写真と比べてください。
飾りでついていた部品を取り外しました、
多少すっきりしたと思います。
ヒーター配線もやり直しました。


何でこんな糸かけをするの?と言いたいようなかけ方でした。
糸が切れているので、かけ方を推定するのに2〜3時間かかりました。
何とか動作するようになったのですが、
何故 黄色いの水糸が切れたかを考えておく必要があります。
普通水糸は簡単には切れません、切れると言うことは、
糸かけの方法が間違っていたのか(シャーシをこする)原因があります。
Nさんの話ではガリガリ言う感じだったそうです、
恐らくかけかたが判らずにシャーシをこするような方法だった可能性もあります。
(水糸をシャーシのエッジで曲げた可能性あり)
今回は特にこする部分も無く、スムーズに動作しますが、
ダイアルドラムに多少触れる部分があります(写真参照)。


上記は構造的な問題なので、
やむを得ずバリコンを少し上にずらすことにしました。
ずらした後の写真です。
これで、大丈夫でしょう。

メーカー以外のラジオはダイアルメカの設計 製造に弱い部分があります。
一般に糸も切れやすいです。


IFTの調整、トラッキング調整をして、修理完了。
6E5は輝度は充分だが、光斑がある。

整備完了したTOHOスーパー。
すっきりしたデザインです、通電するとマジックアイが綺麗です。



ツマミはアメリカの会社が売っているローレット用の物を改造して使ってあります。
ネジは6角レンチで締める方式です。
元来はローレット用ですから、止めネジはありません。
ボール盤を使って、ネジ穴を開けます。
その後 タップでネジの溝を切ります。
普通はマイナスのイモネジを使うのですが、最近は入手できないので、
6角ネジを使ったのでしょう。
(このツマミは小生も持っています、尤も止めネジはマイナスネジを使います)


参考の為 イモネジを示す。
ツマミにはマイナスネジで無いと不便だが、
最近は入手が難しい。

4mmφ マイナス
3mmφ マイナス
3mmφ 6角 (黒色)

上記ツマミのネジは4mmφの6角ネジと思われる。

このラジオは最初に作った人、その修理をした人、オークションに出す時に修理した人の3段階くらいが考えられます。
最初と次は初心者と思われ、
最後の修理をした人は相当のラジオ修理情報と工作道具を持った人と思われます。
ダイアルの糸かけも非常に難しい方式でした(これは設計不良といったほうが良いかも知れません)。
これらをやるには相当の経験と知識が無いと出来ません。
それにしては修理のやり方が酷すぎます。
こんな修理をして、オークションに出すなど、信じられません。
(自分で使うなら、お好みでやれば良いのですが、人様に!!)

最後に
このラジオは修理と言うより一部の作り直し(分解 組み立て)ということになりました。


2002年3月15日

2005年8月16日移転

2006年6月24日移転





ラジオ工房修理メモ

2008年6月15日リンク修正:1864

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