真空管ラジオの修理 福岡の武居さんの自作5球スーパー

武居さんから
「約2年前、偶然本屋にて「男の自由時間 真空管ラジオ、アンプ作りに挑戦!」の中に5球スーパーラジオの製作の項があるのを発見、このレベルのラジオを作製してみたいと欲求に駆られつつも、初歩から徐々に練度向上を果たしてからであると思い直し、1年前より、最近の誠文堂新光社の雑誌をながめつつ、秋葉原にてパーツを集め、ゲルマラジオ、1、2石のラジオ(レフレックス、高1)、そして並4、高1真空管ラジオ等の製作、成功と順調に進めて参りました。
もう大丈夫であろうと、今年の1月に入り「こだわりの真空管ラジオ作り 懐かしい音が聞こえる!」を参照しながら中国式6球スーパーキットの製作に挑戦しました。(総製作時間45時間)しかし、ごく初歩的な配線の失敗が自分ではわからず、内田ラジオの池之谷さんに相談、修理調整、アドバイスなどしていただきました。

今度こそ自分だけの力で5球スーパーの製作を成功させたい、近日中にリベンジしたいと思っておりましたところ、「新版 初歩のラジオ技術 昭和52年9月1日発行 誠文堂新光社発刊」のなかに、mt管5球スーパー製作の項(配線図、実体図付)があるのを見つけ、これに挑戦することとしました。

8月の夏休みに入り、まとまった日にちが取れる状況になったので、製作に取りかかりました。(製作日数3日)
組立の苦労はそれほどはありませんでした。(中国製の6球スーパーに比較すれば大分楽だったと思います。もちろん並4に比べれば若干大変ではありましたが)ただ老眼のためイライラしながら作業しましたので、精神衛生上あまりよくなかったかもしれません。躊躇せず専用のルーペを使うべきところでしょうか。ミズホの既製の穴あきシャーシを使ったので相当楽に出来るとは思っていましたが、ヒューズの穴が大きすぎたり、ST管をmt管へ互換できるアルミの取り付け板を金ノコで切らなければならなかったり、mt管用真空管ソケットの穴が小さすぎたり、ほかに別途穴あけが必要なところが存在したりして改造に若干手間取りました。また、真空管ソケットはベークソケットではなくモールドソケットにしたため、他のパーツの配置(コンデンサや抵抗その他)が実体図と変わってしまい、アース線やビニール線、CR類の配置配線は本当にこれでよいのかと不安を感じつつ、回路図通りになってさえいればまあいいのであろうと、作業をすすめました。(モールドタイプは間隔が狭いため、配線が込み入ってくるとやや大変でした。)また、電源トランス部の配線部については、端子に接着剤が付いているせいかハンダ付けが非常に困難でした。
尚、500KΩVRのBに相当するところ(PUにつながる)が存在しなかったため省きました。

配線ミスがないか点検後スイッチを入れたところ、かすかに鳴っていたので、今度は成功だ、あとは調整すればパーフェクトに作動するだろうと一瞬安堵してしまいました。
「男の自由時間」に記載されている調整法により、後日調整を試みたのですが、NHK福岡第一 612kHzだけがよく聞こえ、他の周波数の高い放送は全く入りません。ミズホ通信のプリアンプ付アンテナUZ-77Sを付けてもダメでした。IFTやパディングコンデンサの調整もかなり時間をかけてやったつもりですが、あまり回しすぎると取り返しがつかなくなるかと思い、ほどほど(それでも3回転くらい)でやめております。これら(IFTとパディングコンデンサ)の調整については、上面だけを回すのか、上下面を回して実施しなければいけないのか、よく分かりませんでした。
色々調整にかかわる項目につきインターネットや古い文献などを参照したのですが、
テストオシレッターが必要であるとか、バリコン付属のトリマコンデンサーで周波数とダイアルメモリを合わせるとか、コイルのコアを調整するとか、コイルの巻き線を足すとか引くとかして周波数を合わせるとか、調整棒でチェックする等々の言葉をみて、これは手に負えないと撤退した次第です。

不調の原因については自分なりに考えてみました。パディングコンデンサの取り付け方が悪いせいか、(シャーシからなるべく浮かせて取り付ける、とどこかの文献で見た記憶がありますが)また、IFT-1における本来6D6の第一グリッドにつなぐべき線は、今回は不要と思われるので取ってしまった方がよかったのか、IFTがらみの配線やバリコンへの配線が長すぎて容量が変わったのか、バリコン(アース)とコイルが変に接近していて同調できる周波数に支障をきたしているのか、アースの取り方がまずいところがあるのか(特に6BE6の第一グリッドにつながる20KΩ)、中古の真空管が不調の原因なのか、IFTが455kHzからもともと思い切りずれているのか、等々色々と考えましたがよくわかりません。自分の能力を超えております。」



誠文堂新光社発行 新初歩のラジオ技術(昭和52年発行)より

回路図は何故か新版の方に誤植があり、R1の2KΩが25Ωになっている。
旧版の回路図(昭和49年発行 最後の図)もご覧ください。

比較する場合はこちらをご覧ください。

6AV6のプレートには高周波分のバイパスの為100PF程度のコンデンサーが使われているのだがこの回路図では無い。
AVC回路のフイルター(R6とC12)が組み込まれているので、省略されたのかもしれない。



送られて来た自作ラジオ。
良くこれだけ新品の部品を集めたものだと感心します。




ST管用のIFTの為、リード線がついたままです。
これは切断する必要があります。


ケースを外して、内部を見るとこのようになっています。
リード線は半田付けを外すか、切断してください。

ST管を使う時は6D6用のグリッドキャップを接続して使います。

バリコンを動かしても発振周波数が変わりません、このような経験は非常に珍しいです。
パディング・コンデンサーが怪しいと外してみると、絶縁ワッシヤーが一個たりません、
シャーシの穴が小さいのと複合して、軸部分がシャーシと接触していたようです。
配線図を見ると解りますが、結果的に発振VCをショートした形になっていました。


パディングコンデンサーは軸が絶縁されていませんので、初めて組み立てる場合、気がつきにくいです。
パディングコンデンサーの容量を測定してみると、220PFでした。
ミズホ製の発振コイルは100μH程度と思われるので、この容量と発振コイルで1067KHzを発振していたものと思われます。
これは福岡第一の612KHzの局発周波数なので、この局のみ受信できたのでしょう。
逆に言うと福岡第一が受信できる位置にパディングコンデンサーを調整したと言うことでしょう。




穴が少し小さいので、これから拡大した。


軸の部分をシャーシと絶縁する必要がある。
アクリルの板に穴をあけ、下敷きにして、シャーシの上はワッシャーを使った。

パディングコンデンサーを使う時はこのような落とし穴があることに注意してください。



アース配線に1箇所半田付け忘れがあったが、この部分は全く問題ない場所だった。
全体的に配線ミスは見つから無かった。

ただ手本にした誠文堂新光社発行 「新版 初歩のラジオ技術」に回路図と実体図で違いがあるようだ。
回路図に間違いがあり、これで組み立てたのでは大変だったでしょう。

お手本の検波回路付近の回路に間違いとまでは言えないが、気になる部分があったので、部品を追加した。


6AV6のプレート回路に200PF
この部分はオリジナルの回路図に無し。
常識的にはつけるべきです。

検波後のIFフイルター部分に60PFを追加。
オリジナルの回路図にはあるが、実体図には無い。
シールド線を使っているので、省略しても大丈夫と思われます。
このため、実体図に無いのかも?。


トラッキング調整後 動作試験をしているところ。

スピーカーが小さくてかつ裸なので、ハムは気にならなかったが、
大きな木箱に入れたスピーカーを使うとハムが出る可能性が高いです。



バリコンはトリマなしタイプの為、トラッキング調整ができません。
せっかくですから、手持ちのトリマをバリコンの上に組み込みました。
最大容量は13PFくらいで、心持小さいのですが、何とか調整できました。
これから準備される方は最大容量20〜30PFの物を購入されたら良いでしょう。

コイルにコアがありませんが、トラッキング調整後 実用的に使える程度になりました。
都内の我が家でアンテナ無しでNHK1(594)が受信できます。

男の自由時間「真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦」などトリマの無いラジオを見かけますが、
どうも気になって仕方がありません。
トリマはぜひつけてください、それだけの効果はあります。







修正後のシャーシ内部。
お手本の実体図に即して配置や配線されているが、
どちらかと言うとお手本の配置に無理がありそう。
IFが発振して 困った。
ST管用シャーシなので、mT管を使うと配線が引き回された形になるのが嫌らしい。
最終的に 6BD6のカソードバイパスコンデンサーを省略することで発振を止めた。
理想的には配置と配線をやり直すべきかも知れない。
真空管の取り付け方は実体図どおりに組み込まれているが、
6BE6は逆時計回りに90度、6AV6は時計回りに90度回転させた方が配線が短くなりそう。
発振回路ももう少し真空管に近い位置に組み込むべきでしょう。

なおVRでPU用切替SWは入手難なので、このような配線は不要です。
切替が必要なときは別のスイッチを付加してください。

6AR5のヒータとトランス間の配線はできれば、もう少し太いビニール線が理想的。
これはヒーターの全電流が流れる為です。


誠文堂新光社発行 初歩のラジオ技術(昭和49年発行13版)より

上記に書いたごとく、真空管ソケットの方向は変更した方が良いと思われる。
6BE6は左(時計と逆方向に)回りに90度、6AV6は右回り(時計と同じ)に90度回転させた方が良い。

なお回路図にあるC12が 実体配線図には無い。




主要部分の電圧を測定し、旧版の回路図(初歩のラジオ技術 昭和49年誠文堂新光社発行)に追記してみました。
95−99V表示は受信した時と離調した時で電圧が変動することを意味します。
緑色表示のAC電圧はB電圧の中の交流分の値です。
(0.1μFのコンデンサーでDC分をカットし、テスターでAC電圧を測定)
AC 5.2Vは比較的大きな数値で、この程度だと低音の出るスピーカーだとハムが気になるでしょう。

旧版の回路図と新版の回路図で微妙に違いがあります。
書き直したのでしょうか。
比較する場合はこちらをご覧ください。

誠文堂新光社発行 「新版 初歩のラジオ技術」は中野区の図書館にもあるくらいなので、各地の図書館にもあると思います。
ぜひ 読んでみてください。

 ラジオの修理を自分でやる方は このホームページの他真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!、や真空管式スーパーラジオ徹底ガイドも参考にしてください。
不明な点はラジオ工房掲示板に実名で投稿ください、修理ノウハウの提供は無償です。
初歩的なことでも結構です、ただし他人が解るように書いてください(神様や占い師にするような経緯を省略した質問は返事不能です)。

当方に依頼される方はラジオ修理工房をご覧ください、こちらは有償です。
 

2007年9月2日

2007年9月6日




ラジオ工房修理メモ

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