真空管ラジオの修理  放送局型123号受信機の修復 

放送局型123号受信機(戦時標準型、臨時型とも)の修復をしました。
@使用上安全第一にすること。→電源コードの取替え、ヒーター接続順の変更。
A他の部分は出来るだけ元の回路に近いように。
Bシャーシ上面はオリジナルに近いように。
Cこのシャーシは比較的初期のものらしく、バリコンとダイアルは同軸だが微動機構が付いていた。
シャーシも塗装されている。
使われていたVRも大型で、丁寧な造りだ。

修復前のシャーシ上面。
左側シャーシ上下の紙ケースの電解コンデンサーがついていた。
(入手時取り外されていた、紙の残骸が少し見える)
入手時のシャーシ底面。
紙ケースのケミコンが取り去られ、代わりにチューブラコンデンサーが付いている。
これは修理のときに交換されたものらしい。 
赤いコンデンサーは戦後のもの。
大部分の部品を取り外した状態のシャーシ底面。
真空管のヒーター配線が最短距離で配線されていることがわかる。
真空管の信頼性を無視した接続順。
(ヒーターとカソード間に高電圧がかかる)
   ヒーターの配線を修正する。
真空管の接続順を正規型に合わせる。

@修復の原則として、安全性を確保するため、ヒーターの接続順を変更。
PL−B37−24Z-K2(整流)−12Z-P1(出力)− 12Y-V1(RF増幅)ー12Y-R1(検波)の順とした。
 
A抵抗は測定して、使えるものだけ利用した。
平滑用の2KΩは3KΩに交換されていたが、2KΩに戻した。
B平滑用のケミコンは手持ちの関係で、250V 10μFを4個使った。
整流管を出た直後の2個のコンデンサーは元回路では8μFである。
これは増やすとハムの減少や電圧の増加で良いのだが、
整流管に無理がかかる可能性があるので、これ以上は大きくしないこと。
抵抗を通過した後は大きくしても大丈夫。
元回路より大きい値だが、多少ハムを感じる。
Cなお最近の(雑音に満ちた)電源事情から言えば、トランスレスは雑音まみれのラジオになりかねない。
ノイズに無防備だ。
出来ればノイズフイルターが欲しい。
必要に応じてフイルター回路を追加する。
修復完了したシャーシ上面。
紙ケースのケミコンが無いことを除けば原型に近い。
左は今回使用したS付きボリューム(B型 本来はC型です)。
ケースにつけてある電源SWが不良なので、このSW部分をを利用。
中央は元から付いていたVR、ガリオームで使えず。
VRはRF管の全電流が流れるので、大きなものでないと駄目。
理想的にはC型、今回は入手できないのでB型を使用。

右はアンテナ線へのカプリングコンデンサー0.001μF。
これはオープン状態で、10pFしか無かった、不良。
固定コンデンサーで再利用したのはグリットリークだけです。
これは不思議に使えた。
ペーパーコンデンサーやケミコンは全て破棄。

放送局型123号受信機結線図(臨時)。


このホームページでは戦時標準型と標記してありますが、
実際のラジオにはこんな記載がありません。

この規格は昭和17年2月に決まったようです。
ただヒーターの接続順だけは下記のように変更した方が無難。
 1942年に改定された123号の回路図を見ると、突入電流防止用の抵抗R15が追加されています、これは非常に良い事だと思います。
ただ不思議な事はヒーターの接続順が無茶苦茶になったことです。
ヒーターとカソードの間に高電圧が加わると絶縁不良になる恐れがあります。
材料が悪くなった時代に何故この様な設計がされたのか不思議です。
想像するに、この様な順で配線すると配線材料が節約できる事です。
改良より改悪と言っても良いかもしれません。
「初歩のラジオ」誌1951年11月号の記事によれば、真空管のHとKの間に、
下記の電圧が加わっています、危険な数値といえるでしょう。

 

12Y−V1

12Y−R1

12Z−P1

24Z−K2

正規

117V

134V

168V

185/190V

戦時標準

116V

237V

220V

151/141V

6D6や6Z―P1等は、HK間は45Vが規格ですが、12V管になってこんな凄い電圧が加わって大丈夫なのでしょうか。
なお24Z−K2だけはカソードヒーター間の耐圧が300Vと規定されています、その他の球については規格表に記載がありません。
資材不足時代に急に高耐圧の球ができたとは考え難いのですが、こんなところに故障が起こり易い原因がありそうです。
PL 抵抗管 24Z−K2 12Z−P1 12Y−V1 12Y−R1の順が常識的です。

123号(戦時標準型)の裏面
修復の完了した123号受信機。
ツマミはオリジナルではありません。



抵抗とコンデンサーの再利用について

抵抗は断線か抵抗値が高くなる現象があります。
測定して再利用することを勧めます、測定結果の例は下記。
コンデンサーは全数破棄したほうが無難。

表示 300 700 1MΩ 20K 3K 30K 1MΩ 30K 250K 30K 2MΩ
実際 400 982 1.37 20.2 3.6 38.4 1.7 30 275 31.7 2.4
再利用 × × × × × ×


平成13年5月9日作成 11日一部修正






壊されていた123号(2017年4月26日)



ラジオの中でネズミが巣を作っていたらしい。
凄い汚れでした。



キャビネットに添付されていた放送局型 123号の配線図

なおこれは戦時標準型と呼ばれるタイプで、ヒーターの接続順が真空管の配列順と言うか、配線がもっとも短くてすむ方法です。
ただこの接続はヒーターカソード間の絶縁が壊れる確率が高くなるので、そのまま修復しない方が無難です。
最初の標準型の接続順に改めました。






なコンデンサーの容量は倍圧整流部分の8 8は10 10μFへ、6μFの部分は100μFを使いました。
平滑抵抗は1KΩに変更しました。


バリコンの羽が変形しています、これも修正しました。



何故かアンテナコイルにトリマが組み込まれている。
配線をたどると、G(同調コイルの)側とアンテナコイルのホット側に入れられている。
結合度を密にするためなのか?、
理由は不明だが、結合度があがると周波数の高い方で感度が良くなるかも。


感度調整用の10KΩVRです。
接触が悪く 修復は諦めて、スイッチ付き新品VRに交換しました。



ここまでで一応配線が終わったので、通電してみました。
感度が猛烈に悪いのです。
各部分の電圧を測定してみると、12YV1のプレート電圧が出ていません。
調べてみると、コイルの断線でした。
画像 丸印の部分です。




取り外して コイルを解いてゆきます。
外環部の1.3層ほどをとり終わった頃に断線が見つかり、この部分を削除しました。
本来は交換すべきでしょうがか替わりもないし、インダクタンスも6mHくらいあるので、これで良しとしました。

これで感度も大幅に向上したのですが、様子が変です。
感度調整用VRを調整しても絞りきれないのです。
カソード電圧は50V位まで可変できているので、感度が落ちないのは不思議です。

バリミュー管の場合でもこの電圧なら当然カットオフ状態(ほとんど増幅しない)です。

どうしようもなくて 翌日冷静に考えてみました。

結果 判明したことはグリッドキャップの半田付けの外れでした。


見かけ上接続されているように見えたのですが、配線とグリッドキャップ間に導通がありません。
配線を無理やり 外した時の写真です。

直流的に浮いた状態でカソードバイアスが効かない状態だったのです。
カソードバイアスはあくまでアース(シャーシ)基準なので、グリッドが浮くとカットオフバイアスが効かない。
真空管にとっては直流的には程よいバイアスがかかり、
高周波的には浮遊容量を通じて接続されていたので、増幅はされていたのでしょう。









キャビネットへの組み込み

実はこの作業が大変でした、2時間くらいかかりました。
最終的に判ったのは画像の指針で矢印の部分、ここが半田付けされています。
どうも以前修理した人がここで指針を反対側に取り付けたのが原因ではないかと想像されます。

戦時標準型のキャビネットはダイアルの軸部分に木枠が出っ張っているのです、
うまく細工をしないと 指針が引っかかって収納できないのです。
ここまでてこずったのは初めてです。




動作中のラジオ





今回使えなかった部品 真空管も2本だめでした。

12YーV1はヒーター断線 24ZーK12はヒーター断線だったが、脚の半田付けで回復した。
ただ片側の整流がほとんどだめで倍圧整流には使えない。

たまたま元箱いりの新品の手持ちがあったので使った。





放送局型123号回路図

これは標準型の回路図です、真空管のヒーター接続順はこのほうが合理的です。
拙著「真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦」掲載の回路図より。

今回の修理品は戦時標準型でしたが、ヒーター接続順はこちらによりました。


なお画像にミスプリントが有ります(赤字で修正ずみ)。



この書籍の正誤表は
http://radiokobo.sakura.ne.jp/R/w/otokonojiyuujikan-seigohyou.html

素人修理品の修復(2017年11月17日)



通電して見ると、B電圧が100V以下です、これは正常ではありません。
ケミコンはすべて紙ケースに入れられています。
シャーシ下のケースでは リード線はオリジナルと同じ色で引き出されているようですが何故か黒い線だけ弐本引き出されています。
ところが黒い線は2本束ねられて、0.05μFのコンデンサーに接続され、
その後このコンデンサーの片側はアース線に接続されているのです。
(ケミコンのアース側が 0.05経由アースだれた配線)

シャーシ 上の紙ケースでは黄色と黒色のそれぞれ2本の線が引き出されています。
こちらも黄色の線が24ZK2のカソードに、もう一つの黄色の線は12Y−V1の5番ピンに接続されています。
黒色の線はアースラインです。
実はこの配線間違いが200V電圧が出なかった原因です。

この時点では紙ケースを開けていませんので判らなかったのですが、
開けてみると+側は黄色、マイナス側は黒色と常識的な配線になっていました。

倍電圧整流の場合、ケミコンは直列に接続して使うという常識を誤解していたのでしょう。




箱の中がどのようになっているか不明なので、分解してみました。






着手時のシャーシ内部

VR周りの配線も間違いです。

何故かこのあたりは配線が無茶苦茶でした。
半田付けが古いので 昔 素人がいじったままだった可能性があります。
単純な間違いでは説明できないほどの誤配線でした。




修復後のシャーシ内部

配線ミス箇所と部品不良箇所が合計 20箇所以上ありました。
これではとても動作するわけはありません。
修復後のシャーシ内部です。

ケミコンとペーパーコンデンサーは駄目、抵抗は大丈夫との思い込みがあるようで、
断線した抵抗もそのまま使われています。
戦時中で物不足の時代の製品です、品質はよくありません。
この時代のラジオを修復するときは テスターくらいは使って抵抗値くらいは確認してから使用すべきでしょう。




上記配線は最終的なもので、途中で何度も障害に見舞われました。
配線を修正して通電したところ、スピーカーからはブーンと音が出ますが、ラジオ放送は受信できません。
再生もかかりません。

グリッドリークは怪しい(抵抗の断線)ので交換してありましたが、検波管のグリッドでは大きなぶー音がするのに。
受信は全く出来ないということはおかしいです。

このような時はDIPメーターでコイルとバリコンを確認します。

アンテナコイルの方はディップするのですが、シャーシ下の検波コイルではディップがありません。
コイルが断線しているか確認したのですが、大丈夫です。

最終的に配線を疑いました。
まさかと思っていたのですが、配線が途中で切れていたのです。
見かけは大丈夫そうに見えても思わぬところで落と穴があります。
状況写真は下記です。







次に 再生バリコンが、回すと途中で無音になるのです。
羽根を修正しても無駄、何度やっても駄目、思い余ってよく見ると、羽根と羽根が接触しているのでは無くて、
羽根と軸が接触しているのです。
調べてみると 軸の固定ネジが緩んでいました。







交換した 不良品
抵抗の断線は想定内だが、配線の途中断線は想定外でした。




ランプは3V 0.15Aのものを利用した。


 ラジオの修理を自分でやる方は このホームページの他真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!、や真空管式スーパーラジオ徹底ガイドも参考にしてください。
不明な点はラジオ工房掲示板に実名で投稿ください、修理ノウハウの提供は無償です。
初歩的なことでも結構です、ただし他人が解るように書いてください(神様や占い師にするような経緯を省略した質問は返事不能です)。

当方に依頼される方はラジオ修理工房をご覧ください、こちらは有償です。
 

2001年11月2日
2005年8月16日移転

2006年6月24日移転
2011年7月8日:1,337 画像と文章の追加 修正。
2017年4月27日:3,761
2017年4月30日:4,004
2017年11月17日:4,417

修理のノウハウや資料については下記の書籍をご覧ください。




ラジオ工房修理メモ

ラジオ工房 放送局型受信機


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