真空管ラジオの修理 マツダ 623A GT管オールバンドスーパー

東芝がマツダブランドで昭和28年頃販売していた6球スーパー受信機、6E5を含むため実質5球。
標準型5球スーパーの513Aが定価14,300円、この623Aが32,000円、いかに高級品かわかる。
(電波科学28年9月号による、編集部が28年8月に調査、10月調査時点ではカタログ落ち、
発売開始時期は不明なるも、恐らく27年後半から28年にかけて販売されていたと思われる)
何故高級か?。
当時オールバンドと称して、6〜18Mcの短波が受信できるラジオはあったが、同調範囲が余りに広く、
このため同調が難しく、実質的に飾りに近かったが、このラジオはサブコイルを付加して、同調をしやすくしてある。
初任給の数倍の価格、こんなものを購入した人がいるのですね。

 ラジオの修理を自分でやる方は真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!、や真空管式スーパーラジオ徹底ガイドも参考にしてください。
不明な点はラジオ工房掲示板に実名で投稿ください、修理ノウハウの提供は無償です。
初歩的なことでも結構です、ただし他人が解るように書いてください(神様や占い師にするような経緯を省略した質問は返事不能です)。

当方に依頼される方はラジオ修理工房をご覧ください、こちらは有償です。
 



修理に梃子摺っていると言うことで、気軽に引き受けたのですが、
意外の大物に吃驚。
電気回路でお金がかかっていると言うより、メカ部分が凄い作りになっている。
普通のラジオにここまでやるか!と思うくらい。
中波 短波の2バンドだが、雑誌の記事によれば、
短波は6バンドに分けて、それぞれがバンドスプレッドしてあるらしい。

分解された状態で送られてきたので、詳細は調査中。



出力管6F6が42に改造されています。
ダイアルの糸がありません。
依頼主が入手以前に相当改造されたようだ。
判っている部分は
@スピーカーが電磁型からパーマネント型に交換されている。
交換されたスピーカーの出力トランス断線。
A出力管6F6GTが42に。
Bメインダイアルの糸かけが無し。
Cヒューズが銅線に
D電源SWのベアリング紛失
Eスプレッド指針がオリジナルでは無い。
F6E5が光らず
Gバンド切替SWの不調。
H音量調整用VR不良。


バリコンの軸は同軸構造になっている。
この同軸に円盤が取り付けられていて、
目盛りと意味不明の刻みがついている。
想像するに、短波の放送波をこの刻みで指定し、
メインバリコンの固定に利用する仕掛けらしい。

内部は依頼主が修理に挑戦した為、一部 部品が新しくなっています。
このラジオは大幅に改造されていますので、復元には回路図が必要。
28年のラジオ雑誌を丹念に調べると回路図がありました。

雑誌の記事では左からV1 V2 V3 V4 V5の真空管配列とかかれています。
コイルが中央にあるのに変だなと思って現物で回路を追って行くと、
V3 V2 V1 V4 V5の配列です。
シャーシに真空管の配置を書いたプレートがあるのですが、消えて判読できません。
やむなく半田付けの手際の良さから、この方がオリジナルと判断しました。
普通は途中で逆行の配列はしませんので、雑誌の(製図)トレーサーも間違ったのでしょう。
また回路図にも間違いが有る事が判りました。
42のグリットにコンデンサーがありません、また容量間違いと思われるものもあります。



修理に挑戦
1)部品の取り付けが混んでいるので、真空管のソケットの端子が見えません。
これでは確認が出来ないので、オリジナル部分以外は一旦取り外しました。
2)出来るだけ真空管の端子が確認できるように再取り付けしました。
こうすると後で、確認が楽に出来ます。
3)フイルドコイルの代わりに3W 3KΩの抵抗がつけられていますが、写真で見る如く焼けています。
この対処法は悩ましいです。
 @電磁型のスピーカーを捜す。
 A1.5KΩの抵抗を入れる→この場合、コンデンサーの容量を増加させる必要がある。
  とりあえず1KΩの抵抗で試験することにした。
4)42の廻りの配線をやっていて、配線図の間違いに気づいた。
5)一応完成して、通電→ 猛烈なガリガリ。
6)VRの不良なので、新品に交換。
ただし軸の長さが違うのと差し込み式のツマミなので、この対策が必要。→とりあえず後回し。

使われていたVRも一度交換されたらしく、
途中で半田付けされている。
差込式の特注品のツマミが使われている場合、
この様に先端部を再利用しないとつまみがつけられない。

7)まだなんとなく変!。
電圧を測ると42のプレートが200Vくらいしかない。
電源の1KΩの電圧降下が80Vくらいある、過大電流が流れている可能性大。
カソード電圧が猛烈に高い 25Vくらい。
カソード抵抗はOK、グリットリーク500KΩの断線→新品に交換。
これで何とか音が正常に出るようになる。



仮接続でテスト中。
これで一応 音声が出る。
フイルドコイルの代わりの抵抗は470Ω 4Wの物をとりあえず2個直列に使用。

8)正常に動作するようになったので、正規の配線を始める。
平滑抵抗は放熱のため出来ればシャーシ上につけたいが、感電も考えシャーシ下に取り付け。
原状の10μF 2個ではハムが出る可能性が高いので、出側に33μFを追加した。
ハムだけを考えれば、470Ωの接続点に10μFを、最後に33μFとしたほうが良いのだが、
将来電磁型のスピーカーに戻すことを考え、上記の如くした。
9)電圧切替器兼用ヒューズ
使われている線ヒューズは入手できないので、ガラスヒューズを壊して、中身を取り出して、これを利用。


平滑用の抵抗 4W 470Ωを3本直列に。
発熱が激しいので、抵抗は間を空けて配置。

シャーシの左側の隙間に33μFのケミコンを追加。

10)調整のため、試験用のマジックアイを接続すると、ぼやけてほとんど光らない。
調べてみるとプレートとターゲット間の1MΩの断線だった。
500KΩもそうだったが、高抵抗は比較的断線しやすい。

左側写真 1MΩ断線

右側写真 1MΩ新品に交換
輝度が全然異なる。

11)調整を始めたら、困ったことが発生。
短波のバンドスプレッド用のコイルのμ可変用ダイアル糸が断線してしまった。
製造後半世紀経っているので、仕方の無いことかもしれない。
糸かけ後調整再開。
12)中波帯はコアつきコイルのため比較的簡単に終了。
短波はコアがついてなく、空芯コイルだ。
6Mcで300Kcくらいずれている、この調整はコイルの中の巻線をずらす事により比較的簡単に調整できた。
トラッキング調整も低い方はコイルの調整を同じようにやって終了。
しかし高域の18Mcは残念ながらトラッキング調整が難しかった。
多分部品の経年変化の影響でしょう。
パディングコンデンサーの容量変化と思われるが、未確認。


13)最後に
今回の修理で、苦労したのは電気回路というより、メカニカルな部分の修理と言うか、補正と言うかに
ずいぶん手間取った、時間にすれば半々か。
とにかく凝った作りになっていて、その上 昔誰かが修理と改造をして有ったので、
原状の推定、回復が難題だった。
残念ながら短波のバンドスプレッドの指針は紛失している、代用品がついていたがうまく動作しなかった。

凝ったメカの代表は
クーガ2200の如き、放送バンド帯のメカロック、その時のみインジケーターランプの点灯など、
この当時の日本製ラジオとして、想像できない仕掛けがしてある。
これでは普通のラジオの2倍の価格もうなずける。
電気的に卓越したわけでもないのに何故こんな高級(高価)ラジオを作ったのでしょう。





修理完了。
ツマミはオリジナルではありません。


参考資料
回路図

これは無線と実験昭和28年5月号記載のもの。
一部 トレースミスがあります。
@6F6のG1部分にコンデンサーを追加(0.01)。
A6F6のP回路のコンデンサー0.05は0.005と思われる。

2002年2月9日
2002年2月10日
2002年2月11日
2002年2月12日
2002年2月13日
2002年2月14日
2005年8月16日移転
2006年6月24日移転
2011年11月29日:2,298

修理のノウハウは「真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!」をご覧ください。




ラジオ工房修理メモ

radiokobo-all