真空管ラジオの修理 


男の自由時間
「真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!」の5球スーパー 仕上げに挑戦

まさかと思ったのですが、製作する方がいるのですね、驚きました。
見て欲しいとの要望があり、興味があったので 即引き受けました。

依頼主から
「真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!」で紹介された”5球スーパラジオの製作”を見て、ラジオを作ってみたのですが、
ジーという微かな音がするだけで、旨く動作しません.。色々とチェックをしてみたのですが、うまくいきません。
本の内容と変えたところは、”ラジオ工房”にある正誤表に従い、
  (1)ヒューズを1Aに変更
  (2)6WーC5のG1に接続されている22PFを100PFに変更の2点と、自分なりの変更点、
  (3)電源スイッチ機能を、ボリューム用の可変抵抗器のほうに持たせました。
  (4)イヤホンジャック用の配線を追加しました。
 
  以上のような変更を加え、本に紹介されているように、ダイヤルエスカッションを 付ける段階になり、ひとまず音が出るかどうかチェックしたら、旨く行きません。
  5球スーパラジオの他の回路図も参考にしながら、配線をチェックしたのですが、
  どこが悪いのか分からずじまいです。


早速送っていただきました。
殆ど新品の部品を使って組み立てて有ります。

この写真を見た時、なんとなく違和感があったのはIFTの取り付け方向です。
6D6のグリットキャップのリード線は普通 真空管に近いほうから取り出します。

なお ダイアルの駆動軸は想像以上に幼稚。
昭和20年代初めの安物ダイアルより、まだ酷いと言う感じ。
ガタが凄すぎる。
ダイアルを組み立てた時が思いやられます。



ダイアルの駆動軸の写真1(前面)
既存の金具を利用して、作ったような感じ。



ダイアルの駆動軸の写真2(シャーシ内)
ダイアル糸をかける部分はアルミの軸に+ネジで固定されているように見える。

それにしても器用に作られています、ガタが多いのが欠点。
上下に動かすと軸の先端部で2〜3mmぶれる感じです。


シャーシ内部の配線です。
まず最初に気になったのは整流管の配線です。
細い方にヒーター配線、太い方にAC入力の配線がして有ります。
逆にシャーシの上から見ると、右上が太い穴が開いてます。
(配線と一致しています)

IFTの配線がまずいです。


上の写真を抜き出したところ。


ベークのソケットは真ん中を鳩目で固定したもので、
ここを中心に180度回転します。
写真は少しずらせて写してみました。
皆さん充分ご注意ください。

どうも組み立て時、回転していることに気がつかなかったらしい。
この構造のUXソケットを使う時は充分注意してください。



ここでまず通電してみることにしました。
ところがうんともすんとも言いません。
調べてると6D6のG2(6WーC5のG2 G4にも)に電圧が出ていません。


なお
試運転には代用真空管を使います。
こうすると配線間違いで、貴重なST管を壊す確率が減ります。


原因は15KΩの半田付け不良か、
またはコンデンサーのリード線がシャーシに触れていたようです(黄色の矢印)。
半田付けをしなおすとともに、このリード線部分は短く切断しました。


もう一つの問題は
シールドケースと真空管の高さの不一致です。

真空管の6D6の部分にも書いてありますが、6D6は身長に違いが有ります。
今回はRCAのものが使われていますが、戦後の日本製は多少短いです。
この為、この時代のシールドケースを使うと、うまくはまりません。


とりあえず、台所用のアルミ箔を間に挟んで、固定しました。



昭和20年代中頃以降生まれの「マツダ」だとこの様にぴったりです。
何時頃から身長が短くなったかは正確には不明です。
ラジオ工房の真空管の6C6 6D6をご覧ください。


真空管用シールドケースの常識についてをご覧ください。



IFTの配線はホット側を短く配線するのが原則です。
黄色の矢印のPとGの配線を引き回すのは望ましくない。

IFTを180度回転させて、最短距離になるようにする。


IFTを2個とも180度回転させた。

IFTの端子でホット側(P G)のリード線を短くなるようにしました。




配線について
CR類のリード線が短く切断されているので、意外と手間取った。
性能第一に考えれば、リード線は短いほうがよいのですが、5球スーパー程度ですと、そこまでこだわる必要はありません。
後の改造、修理を考えれば、もう少し長めにしておいた方がやりやすいです。

もう一つはアース母線が細く、浮き上がっている感じなので、他の部品と接触しやすいです。
もう少し太目の線で、シャーシに密着する程度にしたほうが良いでしょう。
IFT横の白い線はアンテナリード。


IFTを180度回転させ、
グリットキャップへの配線を6D6に近いほうから引き出した。

1Aのヒューズが知らぬ間に断線する現象が2回ありました。
気持ち悪いので、調べてみたのですが、原因不明です。
ヒーター配線がどこかでショートしたような、あるいは+Bがシャーシに触れたような感じです。

修理後 通電するとやはり無音です、アンテナを接続して見ると音が出ます、でも感度が猛烈に悪いです。
無音は電源回路のケミコンの大きさが影響しているようです。
率直な感じでは容量が多きすぎるように思いました、12Fがかわいそうな感じ。



6W−C5 6D6 6Z−DH3A 42 12Fの構成ですが、12F(最大40mA)では荷が重いと思います。
出来れば80BKか80HKに交換すべきでしょう。

このままの真空管で使う場合、すぐ壊れることは無いと思いますが、貴重な12Fに無理をさせるのは忍びないです。
@12Fのプレート入力側に突入電流制限用の100〜200Ωの抵抗を入れる(2Wくらい)。
(12Fと最近のトランス(巻線抵抗が低い)の組み合わせで、47μFの入力側コンデンサーは大きすぎる感じです)
それと
A42のカソードバイアスの抵抗を600〜700Ω位にする。
B平滑回路の3KΩの抵抗をもう少し増加する(4KΩ)
  AとBどちらかの対策をして、B電流を減らす工夫をしたほうが良いでしょう。

このトランスは80BKなどを使う前提で250vで設計されています。
42 12Fの構成で使う場合は200V以下のトランスを選んだほうが無難です。



IFTA(IFT1)  トリオT−20A
IFTB(IFT2)  トリオT−20B


調整

このラジオは動作するようになってから、「音が出ないのでは?」と心配するくらい、静か(感度が悪い)でした。
アンテナを接続して、やっとJOAKが受信できるくらいです。
念のためSSGで感度を測定してみると、770KHz 30%変調 50dBの信号がVRを大きくしてやっと確認できる程度です。


IFTの共振周波数を調べてみると450KHzくらいで、特に455からの大きな狂いはありません。
組み立て時の受信範囲は450KHzくらいから〜2MHz以上でした。


調整の準備として
SSGの出力端子を250PFのコンデンサー経由アンテナ端子に、アースをアース端子に接続。

まずIFの調整です。
455KHzを発振させ、IFTを455KHzに調整しました。
驚いたことにここで感度が急激に良くなりました、おおよそ30倍くらいです。
新品のIFT(トリオ T−20)を使っていましたが、コイル4個の内1個の調整が大幅に狂っていました。
これはコアのネジを間違って廻したためか、経年変化かは不明です。
ネジは1(半)回転以上廻すな云々が調整の心構えとして、昔よく言われていましたが、今回は3回転以上廻して同調が取れました。
(なお本で紹介のC同調方式は可変範囲が広いので、測定器無しで調整する時、ネジを沢山廻してはいけません)


目盛り合わせとトラッキング調整

ダイアルが取り付けてありませんので、目盛り合わせは完全には出来ませんが、受信範囲をあわせておくことで善しとします。
全て組み込み完了したら、JOAK 594KHzを受信し、この位置でダイアルの指針をあわせ、
高い方で狂いがあれば、トリマで微調整すれば大丈夫です。

今回はミズホの5球スーパー用コイルを利用していました。
パディングコンデンサーはトリオの正規のもの(新品)です。
バリコンの容量は不明ですが、トリマ付最大430PFのものと思われます。

受信範囲を調べると低い方はIFの周波数に近く、確認できません。
高い方は2MHz以上まで伸びています。
低い方は直接測定できなかったので、発振周波数を確認してみると、900KHzでした、逆算すると受信は445KHzと言うことになります。

この現象はパディングコンデンサーの締め過ぎの場合に起こります。
パディングコンデンサーを緩めて、最低受信周波数を520KHzに合わせます。
高い方はトリマを調整して1,680KHzまで落します。
これは相互に影響しますので、数回繰り返してください。

アンテナコイルは空芯なのでインダクタンスの調整は原則出来ません(やる方法はありますが!)。
594KHzのJOAKを受信し、調整棒を入れて、コアでも真鍮でもともに感度が低下することを確認します。
どちらかで感度が良くなるようならトラッキングが取れていません。
本来は アンテナコイルの調整をすべきです、空芯ですから、巻数を増減して調整します。
コアを入れた時 感度が良くなれば、コイルの巻き数を増やす、真鍮で感度が良くなれば、巻数を減らすと調整が出来ます。
これは原理的には簡単ですが、実際は大変です。

今回はスタート周波数を515〜530の間で、動かしてトラッキングが取れるところで、妥協しました。
結果的に520KHzスタートになりました。
ダイアルエスカッションが取り付けられていれば、また別のやり方もあります。

周波数の高い方はJORF(1422)であわせます。

ここでは例としてJOAK JORFと書きましたが、測定器がありますので、実際はSSGを使って、調整はしました。

ここまで調整すると当たり前ですが、メーカー製受信機と同じ感度まで、向上しました。


結論
今回の仕上げで感じたこと。
@配線の間違いは基本的にありませんでした。
A半田付け不良と思われるところが2箇所あり、これは外見からは見分けにくい不良でした。
Bこの為 いくら配線を調べても不良箇所が見つけられなかったのでしょう。
CIFTの配置不良(取り付け方向)がありましたが、決定的な不都合ではありません。
D現在入手できる部品で組み立てるのは、意外と難しい事がわかりました。
調整できるかどうかが、成績を左右するようです。
E今回のバリコンはトリマ付でしたが、最近のものは付属しないものが多いです、ぜひ30PF程度のトリマを準備してください。
FUXソケットの180度回転には驚きましたが、これは起こりやすいので充分注意してください。
G真空管ラジオの組み立てにはW数の大きな半田鏝を使った方が良いでしょう。
 ニクロムヒーターの場合60W程度が適しています、セラミックヒーターの場合30W程度、どちらも先が太めのものが良いです。
H今回 同梱されていたのはTR用の小さなスピーカーです、42にふさわしいスピーカーを使用ください。
 小さなスピーカーは、42の出力で駆動すると、壊れる可能性が高いです。

後日談
依頼主からメールをいただきました。
@IFTの1つのネジを自分で何回か廻してみたそうです。
 これで3回以上廻して調整できた原因がわかりました。
A高音気味との事で、音質調整用のコンデンサーの容量を増加するよう、推奨しました。
 0.005や0.01μFに交換すると良いでしょう。
Bイヤホーンジャックは外部スピーカー増設用だそうです。

 ラジオの修理を自分でやる方は真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!、や真空管式スーパーラジオ徹底ガイドも参考にしてください。
不明な点はラジオ工房掲示板に実名で投稿ください、修理ノウハウの提供は無償です。
初歩的なことでも結構です、ただし他人が解るように書いてください(神様や占い師にするような経緯を省略した質問は返事不能です)。

当方に依頼される方はラジオ修理工房をご覧ください、こちらは有償です。
 


2004年10月15日
2004年10月18日
2004年10月19日
2004年10月20日 後日談追加。
2005年8月16日移転

2006年6月24日移転

修理のノウハウや資料については下記の書籍をご覧ください。




ラジオ工房修理メモ

radiokobo-all