真空管ラジオの修理 PHILCO 50-526の修理

依頼主から
10年くらい前に、ロスアンゼルスのアンティークショップから、通販で購入したもので、
フィリコ社製・1947年製造(と、そこの店員が電話で説明してくれました)の真空管ラジオです。
数年前まで使用していたのですが、あるときから音が出なくなりました。
後ろを開けると真空管はすべて灯っていて、電源も入り、ボリュームを上げると、微かなノイズが聞こえてきます。
しかし、音が出ないのです。何度かスイッチを入れたりきったりすると、何かの具合が良くなったのか、
突如として朗々と鳴り出し、また突然、前触れもなく沈黙してしまいます。
それでお蔵入りとなってしまい、おまけに最近、不注意からスイッチボタンを折ってしまいました。
プラスチックの部分だけで機械自体には損傷は無いのですが・・・。


真空管は7A8 12BA6 14B6 50L6 35Z5です。
7A8などは手持ちがありませんので、無事である事を祈ったのですが、7A8 12BA6 14B6 50L6の4本がエミ減である事がわかりまし。
しかし4本も不良なのは非常に珍しいです、普通は1〜2本不良と言うのが多いです。
特にロクタル管は日本では生産されず、馴染みが無いので困ります。
14B6は手持ちがあるはずなのですが、行方不明です。
結局 7A8 14B6 50L6はアメリカから通販で取り寄せる事にしました。

注文してから8日ほどで送られてきました。 航空便ですから、送料は高いですが早いです。
早速修理にかかりました。



修理前のシャーシ内部。
早速ケミコンの試験をしました。
漏洩電流は2mA程度です、多少多いのですが、とりあえず修理を続行しました。
50L6のG1の電圧も0で大丈夫です。

使われている部品から日本で修理されたものでは無いようです。
しかし率直に言って乱暴な修理がして有ります。
むき出しの配線が複雑に入り組んでいます。
ケミコンと結合コンデンサーが大丈夫だったので、通電してみました。
整流管直後のB電圧はほぼ正常ですが、7A8 12BA6のプレート電圧が異常に低いです。
30〜40V程度しか有りません。

回路図はラジオ工房のリンク集のnostalgia airのここから入手できます。
50−526の部分に回路図が有りませんので、50−522を使います、現物は殆ど同じようです。
B電源は35Z5のカソードから220Ω 1200Ωの2段フイルター方式です。




50L6のG2はB3から供給されています、B2からSP経由Pへ、B3の電圧が異常に低いのです。
調べてみると、1200が3Kオーム以上に変化しています。
同じW数の1KΩの抵抗に交換すると電圧は多少高くなりました、しかし抵抗の塗料が変色してきます、さらに2Wのものに交換しても同じです。
3Wのものを仮につけて、調査する事にしました。
12BA6と7A8のプレート電圧を測定してみると、30〜40Vしか有りません。


アメリカ式修理というのでしょうか、半田付けはリード線を絡げて有ります。
ただ裸線が交差していて、これで大丈夫かと思うほどです。
詳細に調べてゆくと、7A8の発振グリットに+電圧が出ます、これは変です。
この部分は10KΩでアースされていて、発振コイルとは47PFのコンデンサーで結ばれているだけです。
黄色の枠の中の裸線部分。

詳細に調べてみると、裸線と交差しているのはB回路の(赤いビニール線)配線です。
製造後60年近くになりますので、何度か、部品の交換修理がされている様です。
率直に言って相当乱暴な修理法と言えるでしょう。
オリジナルの部品不良の場合、リード線を途中で切断し、
残りにリード線に新しい部品のリード線を巻きつける方法です。
半田付けはこの方が確実ですが、エンパイヤチューブを使わないので、
危険極まりない配線ともいえます。


部品を外して、詳細に調べてみたら、赤いビニール被服が剥がれています。
半田付けの熱で弱くなった為でしょう。
この部分で接触していたようです。
コンデンサーの配線にオレンジ色のエンパイアチューブを被せ、配線し直しました。
これで無事解決です。

この故障で全ての現象が説明できます。
@ケミコンテスターで測定時 2mA程度の漏洩電流がある。
Aこの故障を修理すると1mA以下になった。
B7A8を点灯しないとB電圧が上昇する。
不良の部分は7A8のG1に相当しますので、この部分に30〜40Vの電圧が加わった事になります。
G1に+の直流電圧が加わると、整流作用が働き、ここで過大電流が流れたものと想像できます。
点灯しない時は整流作用がありませんので、10KΩのリークだけになります。


電圧が正常に出るようになったので、いよいよ動作試験です。
このラジオはアンテナコイルがループアンテナになっていて、それもケースの内部に巻つけられています。
代わりのアンテナコイルを準備する必要があります。
下の写真のようにコアの上にウレタン線を巻いたものを接続しました。
これで準備完了です。

正常に受信できることはわかりましたが、音がなんとなく弱いです。

50L6の頭を見ると電子ビームで黒くなっています。
新品を購入したのに変です。
真空管試験器で試験すると、GMが1000以下しかありません。
これは明らかに不良品です。


元箱入りのRCA 50L6。
新品のはずが、中古で、それもエミ減品とは。

購入元に再度 良品を送るよう依頼しました。
通販では偶にこの様なことがあります。
特に元箱入りは危険です。
修理で新品に交換した場合、不良品を箱に入れて保管する事があります。
持ち主が変わって、別の人が新品と思い込んで、真空管やさんに持ち込む事があるのでしょう。
悪気は無いのでしょうが、これに当ると悲劇です。


急遽 50C5で代用50L6を作成しました。
こうしておくと、35C5をさす事も出来、比較試験が出来ます。
こう書くと簡単ですが、USプラグを捜すのに半日かかってしまいました。
整理が悪い付けが回ってきたようです。


ケースの内部の様子。



50L6の代わりに代用品が挿してあります。
右側のピンク色の紙に巻いた物はアンテナコイルです。
ループコイルと同じインダクタンスのアンテナコイルを準備すれば良いです。
Qメーターが有ればコイルは簡単に準備できます。
代わりのコイルがないと受信できません。

選局のツマミの後ろ側の部分が残っています。
この前面にツマミの本体部分を接着しました。


シャーシ下部の全容。
中央部にPLランプがついている。


シャーシ内部の拡大写真。

AC電源コードはひび割れしていて危険なので、
新品と交換しておきました。
プラグも新品ですので、
古いコードのプラグと交換することも可能です。

ケミコンは大丈夫で、ハムも気になりません、念のため高周波バイパス用のコンデンサー(0.01)をケミコンに並列に入れておきました。
AC電源回路に0.04μF 100Vのセラミックが使われています、修理時交換されたようです、


規格上心配なので、村田のAC電源用セラミックコンデンサー0.01μFに交換しておきました。
こちらもご覧ください。


修理完了したPHILCO 50−526。
ツマミはオリジナルでは無いようです。
前部と後ろ側の軸にはめ込む部分が接着されています。
別ツマミの合成品のようです。
1個はこの部分が外れていましたので、エポキシ接着剤で修理しました。

修理完了したので、元の真空管を挿して動作させて見ました。
音量は相当小さいですが、受信は正常に出来ます。
緊急時の予備用には使えると思います、捨てないで保管ください。

真空管のマークから今回交換したものは全てPHILCOマーク入りです。
製造当時のオリジナルの可能性が高いです。
さすがに35Z5は交換した真空管のようです。

出力管は50V管ですが、ヒーター電圧から35C5の方が100V使用の場合、
大きな音が出るのではと実験してみました。
結果は区別がつきません。
ただし音が出るまでの時間は多少早い可能性があります。

 ラジオの修理を自分でやる方は真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!、や真空管式スーパーラジオ徹底ガイドも参考にしてください。
不明な点はラジオ工房掲示板に実名で投稿ください、修理ノウハウの提供は無償です。
初歩的なことでも結構です、ただし他人が解るように書いてください(神様や占い師にするような経緯を省略した質問は返事不能です)。

当方に依頼される方はラジオ修理工房をご覧ください、こちらは有償です。
 


2005年2月15〜16日
2005年2月18日

2005年8月16日移転

2006年6月24日移転

修理のノウハウは「真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!」をご覧ください。




ラジオ工房修理メモ

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