真空管ラジオの修理 ナショナル国民受信機 Z−1の修復 

ナショナルの国民受信機の修理依頼が一宮のUさんからありました。
このラジオは昭和12年頃発売された3ペン受信機です(ペントードを使った3球受信機)。
並3ではありません、間違いの無いように。
3ペンは珍しいのですが、この時代の並3はさらに珍しいです。

なお3ペンは当時流行したのですが、原理的に大きな音が出ません、12Aを使った並四の方が音が大きいのです。
そのため現在はあまり残っていません。
音が小さい原因は57のグリット検波では47Bをフルに駆動する出力電圧が出ないのです。
出力管の定格では47Bの方が断然大きいのですが、入力が小さいにのでしかた有りません。
そんなわけで大きな音を出すために別項のナショナル4D−1のように検波管と47Bの間に56を入れて増幅するラジオがあるのです。


外観は骨董屋さんで磨いたのか、再塗装したのか綺麗でした。
デザインも縦型ダイアルで、戦前では非常に珍しいものです。
中は物凄いほこりで、半世紀分 溜まっている感じでした。
塗装は別にして オリジナルの状態が非常によく残っています。
スピーカーも断線していません。
さらに不思議なことに低周波チョーク 高周波チョークともに無事でした。
戦前の低周波チョークやトランスが無事という可能性は非常に低いです。
これは奇跡的と思ったのですが、理由がわかりました。


清掃後のシャーシ内部。
47Bが不良になったらしく、56に交換されていました。
47Bは戦後マツダが生産を止めたので、
修理に困ったようです。
56に交換する改造方法を紹介したラジオ雑誌が多かったです。
その後3YP1が発売されたので、
この様な改造は終戦前後の比較的短期間に行われた可能性が高いです。
(戦時中〜昭和23年頃?)
基本的には47BのG2に相当する4ピンが56のカソードになります、
4ピンがアースに接続されていました。
変だなとは思ったのですが、理由は後でわかりました。
56のバイアスはGに500Kオームの抵抗経由マイナス電圧が加えられる、
このマイナス電圧は平滑回路(1KΩ)の電圧降下による。


清掃後のシャーシ上部。
四角のブリキ缶がコンデンサー。
絶縁不良で温まり破裂したのでしょう、
タールがシャーシ上に流れ出し凄い汚れ方でした。
ペイント薄め液でやっと取れました、綺麗になったシャーシ。
ソケットは鳩目で止めてあります、交換していない証拠です。

不良コンデンサーを取り外しました。
ここまで分解して 回路が変なのに気づきました。
チョークコイルが電源の−側に入れてあります。
これがチョークの断線を防いだのでしょう。
この回路は断線防止には効果が高いようです。
このラジオには回路図の貼付がありません。
仕方なく回路図を自分で書き始めました。
コンデンサーに記号がありません、
この部分の接続を判断するのが嫌らしいので、インターネットで調べてみました。
上手いことに益田さんのホームページ回路図がありました、感謝!。
上記の回路図では整流管は12Bになっていましたが、このラジオは12Fでした。
12Fは昭和12年に発売ですから、
この機種は昭和12年前後に製造されたと推定できます。


コンデンサーのブリキ缶はそのままとしたので、
代わりの電解コンデンサーはシャーシ下に取り付けた。
これで一応復元が終わった。

バリコンの近くに見えるシルバードマイカは回路図にありませんでしたが、
現物に0.00025がついていたので、交換して同じ位置につけました。
コイルのボビンが2重になっているので、
回路上どの部分なのかは最後まで判断できませんでした。

通電中のZ−1受信機。
アンテナを接続すると受信します、動作OKのようです。
このラジオは戦前の物にしては珍しい糸かけダイアルです。
糸が切れていたので修理しました。


47Bの代わりに33がアダプターつきで挿してあります。

47Bの代わりの33.
米軍規格の新品です。
33の下のソケットはテスト用の47B変換アダプターです。
このアダプターをつければ47Bの代わりに33を使うことが出来ます。



ここまで確認したので、33をそのまま挿せる様に改造しました。
シャーシに穴を開けたくなかったのですが、
安全のため開けてラグ板を固定しました。
ラグ板を2.5Vヒーターの中継として、
UYソケットの1と5ピンにそれぞれ1Ωの抵抗で接続します。
こうしておけば、47Bが入手できた時 この抵抗をショートすればOKです。
(片側に2Ω入れても電圧降下は同じですが、不精をするとハムが出ます)


回路はオリジナルにしましたが、AC入力とシャーシ間に0.01μF
RFCの電源側の200PFを追加しました。


修理が終わり、57 33 12Fの真空管が勢ぞろい。
アメリカ製の33は多少大きいですが、何とか納まりました。
なお検波管にシールドケースがありませんが、
どうもこれがオリジナルのようです。
外見は極力オリジナルが残るようにしました。
ただ電源コードは綿巻のコードがついていましたが、
安全の為にビニール線に変更しました。
取り外したものは持ち主に返却しました。
どうしても気になる場合、戻してください(使用時注意)。
このように安全に配慮しても所詮トランスや内部の配線は還暦を過ぎています。
使わない時はコードをコンセントから抜いてください。
趣味で火事を起こしては大変です。


完成して動作させているところ。
お世辞にも良い音とは言えません。
グリット検波特有の懐かしいとは思いますが、
非常に歪んだ音です。
音なら5球スーパーの方が良いですね。

このラジオはよほど条件の良い所に保管されていたのでしょう。
錆びがほとんど無く、巻線の断線も無いという幸運に恵まれました。
製造後65年経ったラジオです、是非大事に使って欲しいです。

ラジオの購入は
@このラジオのように改造の無いラジオが理想です。
A内部が綺麗なラジオは注意しましょう。
内部が綺麗と言うことは、中をいじってある可能性が高いです。
Bオリジナルの真空管が組み込まれているか確認しましょう。
(戦前のラジオはソケットに真空管の名前が書かれていることが多いです)

2002年7月10日
2002年7月21日

2005年8月16日移転

2006年6月24日移転





ラジオ工房修理メモ

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