トリオ 9R−59の修理その3

9R−59の修理をしました。
大きな音を出したら無音になったそうです。
この原因はすぐ判りました、コンデンサーのパンクです。
ただ受信してみると 酷い感度です、目盛も想像を絶する狂いです。
よくこれで使用していたと感心します。

修理着手前のシャーシ内部です。



無音の原因は6AQ5のプレート回路の1KV 1000PFのパンクです。
本来この部分は5000PF(0.005μF)のはずなのですが・・・。
この機種のように外部スピーカーを接続する仕組みでは 
スピーカーを外して音量を上げると異常電圧が発生して トランスやコンデンサーを破壊することがあります。
取り扱いには注意した方が良いでしょう。

音が出るようになったので調整です。
まず受信してみると MWの目盛の狂いは無茶苦茶で JOAKがかろうじて受信できる程度です。
594KHzのJOAKが565KHz付近で受信できます。
これだけ狂うとトラッキングがずれて RF増幅がコイルの2段同調で 減衰器になってしまいます。

まずIFの調整です。
455KHzの信号をいれて ピークを確認してゆきます。
ところが初段の下側コイル(6BE6のプレートに接続された方)の調整がコアを回しても全く反応がありません。
コアが外れたかコンデンサーの不良と思い込み IFTを取りはずして 分解してみました。
コンデンサーは150PFが2個並列に接続されていて コイルのインダクタンスもともに正常でした。
おかしいと思いながら元に戻し 回路をよく観察してみると 6BE6のプレート回路にQマルチの回路が0.005μFで結合されたままになっています。

FUNCTIOスイッチをRe(受信)にして、SERECTIVITYはCW−SSBの位置でAMを受信するのが正解らしいと気が付きました。
この機種は少なくとも2台の修理経験があり、なんで今回だけ悩むのか不思議でしょうが有りませんでした。

ラジオ工房掲示板に投稿した処 CW−SSB表示の他  AM−CW−SSB表示もあることが判明しました。
製造ロットによって 表示が違うのです、今まではAM−CW−SSB表示だったので 素直に.調整できたのです。
竹内6EH7さんからは 取説にも記載があるとの指摘を頂きました。
みなさん ご協力有難うございました。

狭帯域が必要な CW SSBでQマルチが使えなくて、逆に帯域を狭くすると音が悪くなるので 
使用頻度の低いAMにQマルチとはいささか 頂けない設計と思われます。

さらに この程度の局発安定度の受信機には 正直ふさわしくない機能と思います。
これらと合わせると 相當アマチュア―的発想の受信機と言えるかもしれません。
広告をみて購入する時は魅力的に見えますが、実際は使い物にならない機能に近いと思います。
発売時のラジオ雑誌にも「理解に苦しむ」的苦言が散見されます。

ただデザインは素晴らしいです、Qマルチを除けば非常に良くできた受信機と思われます。


これで 想定が正しいことが判りました。
この状態で 455KHzにIFを調整し、目盛を合わせ、トラッキング調整をしました。
なおバンドスプレッドダイアルは 指針が右端(バリコンが最も抜けた位置)に合わせておきます。
これが正常な調整方法です

 今回の機種の表示
(初期の製品なのか不親切な表示)
メーカーの製品とは思えない
 JA9TTT/1
加藤さんの機種表示(改良型か?)
殆どの機種はこの方式のようだ。
 


 ラジオ工房掲示板の画像から




この後 BFOの調整ですが、これもコイルを調整して終了しました。
それからQマルチの効き具合を調べようとしたところ、不思議な現象がおきました。
なんと 音量調整VRを右回しにして行くと、音が大きくなり、その後無音になるのです。
常識的には 音量は右回しで大きくならなければいけません。

この原因は6AV6のグリッド回路のコンデンサーの絶縁不良でした。
Qマルチで発生するAVC電圧がリークして 6AV6のグリッド回路がカットオフされるのです。

修理完了後のシャーシ内部。
配線に不具合は有りませんでした。
最終的に コンデンサーを合計4個交換しました。









9R−59回路図



RF付のスーパーの場合、トラッキングは慎重にとらないと、感度の悪い受信機が出来上がります。
特にC DバンドのようにIFの455KHzと受信周波数が離れているバンドはイメージに充分注意してください。
これを間違うとバンドの一部で局部発振が止まり、受信できない周波数が出ます。



アンテナトリマについて
この機種はアンテナトリマがついています。
これはアンテナを接続した場合、使用するアンテナによって同調がずれるためです。
トラッキングを正確にあわせる為にトリマがついているのです。

スーパーの受信周波数は局発で決まりますが、RF無しのストレート受信機だと検波回路の同調周波数によります。
アンテナを交換して、受信してみるとこの現象は良くわかります。




9Rー59の修理(その4)2015年2月27日

受信周波数がどんどん動くという現象です。

さて 受信してみるとJOAK(594KHz)が受信できません、同調点付近で発振しているようです。
RF同調のトリマを動かすと発振の様子が変わるのです、このような現象は初めてです。
JOBK以上の局は受信出来るのですから不思議です。
なにかおかしいので 内部を調べてゆくと、出力トランスにパラに入れられているコンデンサーがいやに小さいのです。
半田つけの跡も新しいので最近交換したようです。
画像 丸印の部分です。 この部分は この異常発振に関係ありません。




取り外したコンデンサー
この部分には直流的には大きな電圧が加わりませんがトランスの1次側ですから交流電圧が加わります。
このような物は危険です。

早速 AC250V耐圧のものに交換しました。



ブロックケミコンに外付けで47μFのケミコンが付加されています。
大きい方がハムが少ないと思ったのでしょうが、5Y3整流のヒーター側に大容量のケミコンは避けたほうが無難です。
これは後刻 修正することにします。


更に IFTを455KHzに調整し 更に目盛を合わせるてみました。
コイルパックのトリマのネジの高さが異常(SW2 SW3はネジ式)なので 素人が無茶苦茶弄ったらしいとは想像が付きました。
この種受信機の調整はバンドスプレッド側のバリコンは容量の最も少ない位置で固定して、
メインダイアルの校正をするのが常識なのですが、素人は常識を知らずに逆の位置で調整するようです。
この受信機の場合も 常識を無視した調整がされているのかもしれません。


不思議と異常発振が弱くなりJOAKが受信出来るようになったのですが、
ところがなんとなく変なのです、よく見るとダイアルの指針が右側に歪んでいます。
この歪みを修正して MWのトラッキング調整まで済ませました。
あら不思議 これでJOAKが完全に受信できるようになりました、当たり前ですが 以前はなぜ受信できなかったのか?。
しかし よく調べるとアンテナの接続具合で発振周波数が変動することが判りました。
発振周波数がより低い位置(550KHz付近)に移行していたのです。 どうもアンテナの分布容量で低い周波数側に共振点が有るようです。
この調整は結構時間がかかりました、移動幅が大きかったせいも有ります。 受信して おかしい状況になったらアンテナの長さを変えてみてください。




校正時 バンドスプレッドダイアルの指針はバリコンの最も抜けた位置(画像の矢印)に合わせます。
この状態でメインダイアルの目盛を合わせるのです。
どうも前の持ち主はこれを間違って LOGGING SCALEの0位置(左端)に合わせていたようです。
これでは当然 両端で合わせても 目盛が途中で合わなくなります。

コイルパックのコイルや ピストントリマ(SW2 SW3の局発)のネジの高さで これは間違って調整しているなと直感的に判ります。 下記画像はSW2のOSC(下側)と同じく局発のピストントリマ(画像上)の調整ネジです。



コイルパックの汚れも半端ではありませんでした、一度水没したかのような汚れかたです。




これだけ調整が狂っていると 単純に信号を入れて調整しても うまく行きません。
イメージと本物の信号の区別がつきにくいのです。
イメージと本物は910KHz違いに出ますので、SW3では目盛が接近しているので 特に注意が必要です。
12MHzを調整する場合 局発の12455KHzをBCLラジオで確認し 調整すると間違いが少なくなります。
画像は 9Rー59で12MHzを受信しながら BCLラジオで局発の12455KHzをモニターしているようすです。

無茶苦茶弄り回してあったので 感度も悪いし とても実用的ではありませんでした。
今回の調整でおそらく100倍以上感度が良くなったでしょう。
この種 通信型受信機は生半可な知識でいじり回すととんでもないことになります。 高周波増幅が高周波減衰器に早変わりするのです。



間違った整備の修正
怪しい部品を見てゆくと半田付けの跡が新しいです。
あまり深く考えずに整備したようです、新しい半田付け跡を目印に整備を進めます。

ケミコンは悪くなったらしく ブロックケミコンは交換されていました。
ただ容量が22μFなので小さいと思ったらしく それぞれにパラに47μFが抱き合わせになっています。


配線図では40μFになっていますが、5Y3クラスだと 本当はヒーター側の容量はあまり大きくしないほうが安全なのです。
22μFでも良いのですが 回路図の定数に近づけました。 調べてみると 整流管は相当弱っています、使えないことはありませんが TVー10Dの破棄値に近い状況です。
優しく使った方が無難です。
配線を変更し 47μ   22+22+47μFの組み合わせにしました。
これで整流管にかかる瞬間負荷はほんの少しですが 軽減されます。





局発が ある周波数で停止することを発見、調べてみると6BE6の発振側GMが大幅に低下しています。
真空管試験器の破棄値以下の値です。
新品と交換することにしました、日立の新品の手持ちを利用しました。



半田付けの跡や怪しいところを見てゆくと コンデンサーの使い方が やはり変です。
特にAVC回路のオイルコンは手持ちのコンデンサーに交換したようですが 動作が変なのです。
単純なリークだけでなく なんとなく電圧が湧き出す感じなのです。
この現象は古いコンデンサーにままある現象です。
安易に手持ちのコンデンサーを流用してはいけません。



AC電源部分のコンデンサーも耐圧は十分でしたが 安全規格品では無いので 念のため交換しました。
下記の画像は修理後のシャーシ内部です。
丸印の部分が今回の変更箇所。
なおBFOの発振が弱いので この部分の修理もしました。
この部分は浮遊容量結合なので 調整は微妙です。







7MHzのアマチュア−バンドを直読する場合

500KHzか1MHzのマーカーを準備します。
このマーカーを手がかりに受信します。
まず @ マーカーをONし、バンドスプレッドダイアルの指針をB1スケールの7.0MHzに合わせる。
A この状態で メインダイアルの指針を「B1」印付近でマーカーの信号を受信できるようにする。
バンドスプレッドダイアルがバリコンが入った位置に移動しているので、メインダイアルは少しバリコンが抜けた位置に動く、この位置に「B1」印がある。

この状態で バンドスプレッドダイアルを動かすと その読みが直読周波数です。
なお14MHzも同様に受信しますが、SW2の14MHz付近はバリコンの容量カーブの関係か、
正常には動きません。




最後に 裏蓋をしまますが、裏側の穴からコアやトリマを微調整しないと 目盛が少し狂う。
これはコイルやトリマが裏蓋の影響で インダクタンスや容量が影響をうけるためです。


最後にSSGと接続して感度試験を行いました。
厳密ではありませんが MW〜SW2は非常に高感度です、ICFー5900より良い感じです。
SW3はどうしても感度が低くなります。
安定度は真空管式ですから この種受信機の常識の範囲です(選択度が高いので5球スーパーより動いたように見えるがこれはIFの違い)。
どんどん動くという現象は確認できませんでした。
「真空管の劣化」 「IFの調整ズレ(3本がずれていた)」 全体の未調整と言うより 「無茶苦茶調整」の3つが総合して起きていたのかもしれません。
この種受信機は通電してから安定するまで30分から1時間はかかります。
トランジスターラジオに慣れ親しんでいると 理解しがたいところもあるかもしれませんが これが常識なのです。

2013年11月25日
2015年3月1日:764
2015年3月3日:1,062

下記書籍を参考にしてください。

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