ソニー トランジスターラジオ TR−72の修理 

SONYの最初期のトランジスターラジオの修理です。
持ち主からメールを頂きました。
症状は周波数ずれです。
NHKが800kHz TBSが1400kHz 文化放送が1600kHz付近で受信できます。
受信音自体は大変良いですので居間で常用ラジオとして使用したいと思っています。



TR-72は昭和30年末に発売されたそうです。
今回のTR-72は製造番号から昭和31年の製造と想像されます。
バーアンテナのコアが2本入ってます。
これは感度を確保するための仕組みです。
ただトランジスターにソケットが使われていませんので、
最初期のロットでは無さそうです。

TR-72は昭和33年頃も作られていたので、
回路図も異なるバージョンがあります。





写真では良くわからないが、コアが2本実装されている。
RF部とAF部の2枚の基板で構成されている。

故障状況
「NHKが800kHz TBSが1400kHz 文化放送が1600kHz付近で受信できる」と言う事は受信範囲が低い方ににずれている事を意味します。
簡単に測定してみると500(以下)KHz〜1,200KHz程度にずれています、普通は発振コイルを調整するだけで簡単に調整できます。
ところが発振コイルのコアを回してもある程度までは調整できるのですが、それ以上は可変できせん。
このような現象はコアが割れたりした時に起こりそうな現象です。
補修用のコイルがあれば簡単に交換できますが、何しろ半世紀近く前のラジオ部品です。
それも特注品ですから、まず入手できません。

RF部分の拡大写真です。
バリコンの発振側は測定したら最大容量140PFでした。

まずコイルを慎重に取り外して測定してみると明らかにおかしいです。
それからコアの溝の部分が半透明で、プラスチックのようです。
逆に言えばとこのネジがコアに接着されていて、
それが外れていれば理屈として現象がよく説明できます。


まずRF部分の基板を外します。
その後 コイルを取り外します。
これは相当慎重にやらないとTRをいためます。
(TRの足が直接コイルの端子に半田付けされています)
この当時のTRは熱に弱いですから、ラジオペンチで熱を逃がしながらの作業です。


分解した発振コイル
左側から
シールドケース
コイル本体
調整用コア
調整用ネジ
この両者が予想通り接着はがれだった。

接着し再組み立て、基板に取り付けて動作試験 OK。
無事完了。

目盛りあわせとトラッキング調整をして、完了。
予想以上に高音質 音量で動作しました。
現在でも実用的に使えます本当に素晴らしい。


最後に
TR-72は半世紀前の製品としては比較的入手容易です。
ただ製造期間が長いので、購入して、意外と製造時期が新しいと失望する事もあるようです。
少なくとも使用トランジスターの形に注意した方が無難です。
今回の修理で一番気を使ったのは骨董的価値を下げないで、修理するかでした。
最初期のトランジスターラジオは動作する事も必要でしょうが、改造されていては価値が下がります。
修理に挑戦する時には歴史的製品です、ぜひ慎重に扱ってください。


その2

受信できないと言うTR−72が修理にやってきました。
電源を入れるとシャーと言う音が出るだけとのこと。


ペンキがあちこちついています。
ペンキ屋さんの持ち物だったのでしょう。
前面の飾り金属も外れています、SONYバッジもありません。


同調ツマミがぐらぐらしています。


分解したところです。
完全に固定用のゴムが溶けています。

困った事になりました。



バリコンの羽根にもこびりついています。
まずこの清掃からです。

でもさらに重大な難点がありました。
ボールベアリングの動きが極端に悪いです。
これは注油したりしましたが、完全に回復はしません。
ここらで諦めることにしました。


高周波部分の裏面です。
裏側にもコンデンサーが組み込まれています。

音が出ない原因は検波用のダイオードがオープンになっていたことです。

これを交換すると受信できるようになりました。

しかし音が小さいです、まるで蚊の鳴くような音です。

もう一つ同じものが使われていますので、調べてみるとこれもオープンです。

それでも音は大きくなりません。




低周波部分の基板です。

低周波部分も増幅率が低いようです。
結合用のケミコンが容量抜けを起こしていました。
基板の裏側にケミコンを取り付けました。
振動で外れないようホットボンドで固定しました。

表面のケミコンは取り外さず、片側のリード線を切断しました。


これで大きな音がでるようになりました。

ところが逆に困った事になりました。
音が絞れないのです。

調べてみるとVRが不良です。
残留抵抗が500Ωくらいあります。

全体で5KΩですから、10%でも厳しいです。

結局これも交換することになりました。
実は代わりを探すのが大変でした。
何とか交換して修理完了。


バリコンの取り付けはネジ部分しか残っていませんでした。
ゴムブッシュとシャーシを固定していたワッシャを流用しました。
これで何とか使えるようになりました。


取り替えた部品の1部分。

不良部品も配線を切断して、基板上に残したものもあります。



交換したダイオード 2本。

これはオープンになる癖があるらしい。





その3

久しぶりにTR−72の修理をしました。
外観は非常に奇麗です、ただ塗装にひび割れがあります。
これはこの機種の特徴で、塗装面では弱点があります。

依頼者より
現在鳴ることは鳴るのですが感度がかなり低下しております。
家の中でも場所によっては良いのですが位置をずらすと全く聞こえなくなってしまいます。
ボリュームも可変範囲が非常に狭い状況です。


正面です、非常に奇麗です。


裏側の写真。
初期のものは「東京通信工業」となっていますが、
これはSONY CORPとなっています。
製造番号を示すラベルが剥ぎ取られています。

この機種は製造番号30,000を境に回路が大幅に違います。
後期型らしいと見当をつけて修理を始めました。



キャビネットから取り出したところです。



パターン面です。
開いた部分から覗き込んで修理しようとしたのですが、駄目でした。
JOAK JOBK FEN JORKの4局が音が小さいながら正常に受信できます。
ただ文化放送や日本放送は受信できません。
それに VRの様子がおかしいです。

部品の劣化と思ったのですが、結果的にはパターン切れでした。
判って見れば、なんだと言う事ですが、いささか悩みました。
第2IFのコレクター(検波段のIFT)への電源供給ラインが腐食により、断線していました。


写真 黄色の矢印の先。
注意しないとわかりません。
電池の液漏れの影響です。
感度が悪いが正常に受信できるので、まさかと思ったが、第2IFのトランジスターが働かなくとも受信はするのですね。
正直 予想外でした。

パターンをジャンパー線で補修したところ、今度は音が大きすぎて、手がつけられません。
VRも殆ど効きません。
抵抗値を測定してみたら、表示5KΩが9KΩ近くに、残留抵抗を測定してみたら7KΩ近くありました。
完全にVR不良です。
手持ちのVRを加工して、取り付けて修理完了。


VRを外してみたら、34.3と書いてあります。
どうもこのTR−72は昭和34年3月以降に作られたようです。

最初の発売は昭和30年12月ですから、トランジスターラジオとしては非常に長い間製造された事がわかります。
この為、回路も大きく分けて2種類あるのでしょう。
トランジスター開発初期でこの様な長期間製造が続けられたのは驚異的な出来事と思われます。


IFの調整を試みたのですが、コアが固着していたので、無理に廻すと割れますので、そのままとしました。

このTR−72は意外と長持ちします、壊れにくいトランジスターラジオと言えるでしょう。
惜しむらくは塗装がはげやすい事です。

その4)凄く奇麗なTR−72

故障の症状は「かすかに受信できるものの、VR最大でもやっと聞こえる程度の音量」とのこと。
到着したラジオを見て吃驚凄く奇麗です。
このラジオは随分見てきましたが、これほど奇麗なものは初めてです。
再塗装したのではと思えるほどです。
一般にTR−72そのものは塗装が悪く、満足なものは殆どありません、これは例外的です。






後ろの扉が外れる方式です、これも初めての経験です。
TR−72はたくさん作られていて、製造番号30000番未満が初期型、
それ以降が後期型になります。
回路図が違いますので注意が必要です。
修理前の部品面。
この機種は回路図がありますので、順次前段から信号を追いかけてきました。
AFの初段のTRのコレクターには信号が出ていますが、AF2段目のTRのベースの信号が弱いです。
3μFのケミコンの容量抜けでした。
初段の部分も容量が抜けているようなので、2個とも交換しました。
これはオリジナルのケミコンを外し、新しいものと交換する形にしました。
他のケミコンも怪しいので、付加する形で組み込む事にしました。



裏蓋を開けた時に新しい部品が見えないよう、
全て基板の裏側に貼り付けるようにして補修しました。
基板を金属シャーシから外して行います。


RF段とAF段の基板全て同じように修理しました。
シャーシに組み込んだところです。

音量調整用のVRにガリがあったので交換することにしました。
取り外してみると、これは昔交換したようで、オリジナルではありませんでした。
元通りに接続するようにリード線に印をつけて分解、交換しました。
実はこれが間違いでした。



修理後の部品面。
但し翌日間違いに気がつき修正しましたので、
これが最終的なものではありません。


動作するようになったのでIFTの調整をしようと信号を入れてみたのは良いのですが、コアの調整が出来ません。


透明で少し盛り上がって見える部分が接着剤です。
このIFTはコアはアクリルのネジと接着されています、
しかしこのラジオのアクリルのネジが接着剤で動かないようになっています。
無理に動かすと割れますので、調整は諦めました。


トラッキング調整をして、キャビネットに入れて、終わりとしました。

一晩試験してみて 音量は充分だが、音質が多少悪いのが気になり翌日 再度分解してみました。
この時代のラジオはマイナスネジを使っています。
奥深い部分のネジを組み込むのは随分辛いです。
+ネジの10倍以上の手間がかかります。

音質の悪い原因は出力トランジスター2本のバランスが悪くなっているようです。
この時代のもので、同じ製品を探すのは費用の点で問題があり、最近のものに変更すると骨董価値が低下します。
このまま使っていただいた方が無難ではと思い、依頼主と相談、了解を得ました。

もう一つ困った事を発見しました。
VRの配線間違いです。
修理前と同じ配線に戻したのですが、どうも昔 VRを交換した時間違った配線をしたらしいです。
音量も変えられるので、直ぐには気がつきませんでした。
VRの中点とホットエンドが入れ替わっていました。
これをオリジナルに戻して、一件落着になりました。
気がついて良かったです、後日 恥ずかしい思いをするところでした。

なおネジ類が紛失していました、AF基板の固定ネジ4本のうち2本です。
マイナスで同じものは見つからなかったですが、+ネジで見つかったのでこれを使用しました。

総合して考えると器用な素人が昔修理に挑戦したようです。
コアを接着したり、ネジをなくされると正直困ります。

5 東京通信工業(製造番号55xx)製のTR−72

手元に時計修理仲間の時計屋さんから譲り受けた東通工の「ソニーラジオTR-72」(シリアル55XX)があります。
音量が、ボリュームを一杯に上げないと聞こえない状態になっております。
ラジオ工房のウエブを拝見しますと、骨董的なラジオのように記述されておりますので、この際、
可能な範囲で修復させておきたいと思います。

ソニーのTR−72は長期間にわたって製造されました、今回のもは比較的初期に製造されたTR−72です。
製造はTOKYO TSUSHIN KOGYO LTDになっています。




音が小さいです,蚊が鳴くような声といってよいでしょう。


修理前の裏側(部品面)の写真です。


不良部品はホット側を切断します。
取り外すと、空き地になるので、エポキシ接着剤で固定します。


交換部品はすべて、基板の裏側に組み込みました。
こうすると、表側から見たときに オリジナル部品のみしか見えません。



音が小さいと言うことで修理を始めたのですが、
部品交換をして、調整すると、結果的に音が小さくならなくなってしまった。
原因はVRの不良でした。
VR最小の位置にしても残留抵抗があるのです。
最終的にVRも交換して修理完了です。

裏蓋を空けてもオリジナルのTR−72と見分けがつきません。
この機種は 実質的にソニートランジスターラジオの2号機ともいえる物だけに現物の見かけを壊さないように修理する必要があります。

その6(先輩から預かったものです)

2年以上前に 先輩から預かったものです。
すぐ修理を始めたのですが、どうしても発振が止められず、修理を中断していたものです。




裏蓋を開けたところです。
この状態では 部品の交換したものは見えません。
不良部品は取り外すか、回路的に浮かしてあります。
代わりの部品は全て、基板の裏側に組み込みました。
何しろトランジスターラジオ創世記のものですから、
動作は勿論 見かけも大事な修理ポイントです。

最初は微かに動作したのですが、発振がどうしても止まらず、修理を休止していました。
仕事が一段落したので 再度挑戦しました。
コイルの断線を発見し修理し、これで動作するようになりました。
この程度古くなると、思わぬ部分で壊れています、予想外でした。
ただIFTを調整すると、まだ発振します。
感度と発振停止の間隙で調整を終わらせました。
不満足ですが、実用的には充分使用できます。

製造番号は27XXXですから、初期型です。
製造はソニーになっています。

裏蓋の機器銘板




基板の裏側です。


高周波基板を外して、低周波部分のみ。


部品は全て 裏側に。
ダイオード2個も不良になっていました。

その7(悪戦苦闘のラジオ 2017年5月30日)

高周波基板はいつものように作業して解決したのですが、AF基板でトラブル発生して苦労しました。

最初に修理したのはトランジスターが1個不良だったので、基板裏に代わりのものを組み込んで修理しました。
ところが低周波発振がおき易いのです、音量を上げる、時間が経過すると発振すると気まぐれなのです。

最初に修理した基板



いろいろ調べてみましたが原因がわかりません、やむを得ずICアンプ基板を組み込むことにしました。
小型の基板ですべて基板に組み込まれているので便利です。

超小型基板(ステレオ)を組み込んだところ




AF基板の初段は生かし、2段目以降をアンプ基板に受け持たせることにしました。
上記左側に出ている線がスピーカーへの配線です。
実はこの状態で、ほぼ正常に動作したのです。
画像右側のVRは増幅量を調整するためです。



上記画像のように組み込んだところ、動作しません。
アンプと言うことであまり調査せずに利用したのが悪かったようです。
スピーカへの配線から雑音?(自分から見ると)が撒き散らされていることがわかりました、
完全に失敗です。

もともとパソコンなどに使うもので、ラジオに使ってはいけない基板をつかったようです、反省。


LM386を使った基板

D級アンプの使用に懲りて普通のアンプICを利用することにしました。
秋月電子で特に低電圧用と記載のあるものを購入してきました。
これを利用して出力アンプを組みました。
初段はオリジナルのTRが活きているので、ドライバー段と出力段の代わりです。
厚さ方向にも制限がありますので、注意して組込みます。


シャーシに組み込んだところです。
この程度だとスピーカーの出っ張りと競合せずに何とか収まりました。




左側はRF部分です。
なおこの機種はTRラジオ創世記のもので回路が非常に複雑になっています。
RF部分とAF部分が相互に干渉しあうので、修理は非常に嫌らしいです。




背面の様子です、使用部品はオリジナルのものが残してあります。
これがこのラジオの修理の嫌らしいところです。




TR−72回路図(製造番号 30,000未満)


この製品のトランジスターそのものには型名が書いてないことが多いです。
トランジスターの製造初期のため、出来たものを個別に測定して、
選別の上利用したのでしょう。
回路図に描いてある型名は参考程度に見ると良いでしょう。
この回路図は無線と実験 401回路図集(1958年3月発行)から。

この機種は大量に製造されています、30,000以降のものは回路図が違います。

2003年6月9日
2003年6月10日
2004年9月8日
2005年8月29日
2005年11月4日
2010年3月21日:1,915 5)を追加。
2010年9月28日:2,923 6)を追加。
2017年5月30日:12,296 7)を追加。

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2006年8月5日よりカウント

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